7話 囚われの姫 中編
ディビット・ウィス
領主の息子として生まれ、高貴な一族として育てられる。
10才の折、その魔法の才能は類を見ないとしてー100年に一度の天才と呼ばれた。
そして、その輝くような青い髪と、綺麗な顔立ち。好青年と評判になる。
帝王教育がなされ、領主としての才覚もまた、類を見ない。
20歳を迎えたその年。
人間の勇者が召還された。
2年前ー
「な、何だと!」
信じられない報告を受ける。
「勇者一行・・いえ、お父様は勇者に討たれました!」
はぁはぁと息を切らす伝令兵
ディビット達は戦場の中にいる。
父は、魔法と格闘の才に恵まれ、魔王様が存命の折は第一部隊の隊長を務めていたほどの猛者だった。
「それを勇者が討っただと!?」
今回の人間どもの侵攻は苛烈を極めた。
だが、父が投入されるや否やその戦況は魔族側に傾きつつあったのだが。。。
「それで・・父上の最後は・・・どうなったのだ・・・」
心が苦しい、だが、聞かねば。
「・・・・・申し上げられません」
「何あった・・・言ってみろ・・・・」
伝令兵は、自分で自分の頭を殴った。
「!?おい、何をしている!」
「申し訳ありません!・・・・・お父上は・・・勇者に倒され、その・・・・その・・・磔にされ。火にあぶられ殺され・・・・・我ら同胞の捕虜に・・・食事として出された。。と・・」
目眩がした。
「そ、そうか、もうさがって・・・よい・・・」
兵が下がる。
戦場のテントへ残っているのは俺一人だけだ。
もう、何も考えられなかった。
でも、考えずには居られなかった。
それから一ヶ月。
あの時の兵士には悪いことをした。
取り乱してしまったしな。
だが父上が死んだなどと嘘はいかんよな。
舌を抜かれた兵士の死体が見つかった。
いくつもの、いくつもの兵士の死体が。
あの兵士は何処へ行ったのだろう?
そろそろ、本当の事を話してもらわないとな。どうせ父上と一緒に、俺をからかっているのだ。
思えば、父上はその見た目とは裏腹にイタズラ好きなお人だった。
俺と一緒にメイドの風呂を覗きに行ったこともあったなぁ・・・・
領主の息子、ディビットは故郷へ戻り、領主として迎えられた。
「おかしいな、領主は父上だ。まだ帰ってきておらんのか」
季節はめぐる。
ある日、占いができると言う少女がこの国へやってきた。
はじめは信用していなかったし、人間だということもあってほうっておいた。
だが、その娘は失せ物探しが得意だと、評判になる。
なるほど、ならば父上の形見・・・
流れた月日は、ようやく父の死を受け入れはじめていた。
そうだなわが父の、「剣」あれがどこにあるか探してもらうか。
きっと戦場でどこぞへ無くしてしまっているに違いないからな。
娘が占った場所は、あの決戦の地。
その細かい地図を描き、ここにあると、言って娘は消えた。
そこから1ヶ月
あれほど、期待はしていなかった、
そしてどうでもいいと思っていた占い。
だが一度、その答えをしってしまうと、どうでもよかったのに。どうでも・・・・
自身もが、元戦場へ赴き、その地図の指し示す場所を掘り返す。
見つかってほしくは無かった。
いや、見つかってほしかった。
「あ、ありましたぁ!」
一人の護衛が見つけた剣。
それは見まごうことなく。父の剣であった。
街へ戻り、あの占いの娘を探す。
だが夢、幻のようにそんな人間はいなくなっていた。
あきらめきれず、隣の街・・村にいたるまで探す使いを出すが、見当たらなかった。
だが・・・
その半年後。
娘が見つかった。
我が街で。
長かった、本当に。お礼を言わねば。父の剣を見つけてくれて、教えてくれてありがとうと。
そしてまた占ってもらうのだ。
父はどこにいるのかと。
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「なぁ、娘よ。我が父は何処にいるのだ?」
優しく、穏やかな声で話しかけるディビット。
「い、いないわ・・・この世には・・」
がたがたと震え、捕らえられている水田は答える。
「なるほど、なるほど、そうなると、どうやって会えばいいのだろうな?」
ぎょろりと、その大きな瞳が覗き込む
「・・・・・・」
声が出ない。そして、その答えを水田は持って、この街へ帰ってきている。
「分かっているのだろう占い師。教えてくれないか?」
ディビットはあの日以来、まるで同一人物かというほど様相は変わっている。
ストレスなのかその鍛えられた体は醜く大きくなり、あの綺麗だった青い髪はすべて抜け落ちた。
水田は知っていた。
あの日の夜、抜け出すことでディビットに捉えられてしまうこと。
そして、この、
「最後の質問」をされる事を。
この質問に答えたとき、水田の命は裂ける。
だが、そのひと時をなんとか耐えれば、彼が助けに来てくれる。
そして、彼の覇道が始まるのだ。
その横に自分は居られる。
それは確かな事実。
だから自分は、このディビットの機嫌を損ねないよう、
ここで耐えて、彼を待つのだ。
囚われの姫として。
ディビット・ウィス 父の死を受けいれられない魔族 しかしながら天才的な魔法の使い手