2話 マーストの町
二年半ぶりか
仲間を集めるために山を降りた俺たちはひとまず町に出た
情報収集を兼ね、そして仲間を得るために
久々に訪れたマーストの町
俺の事など、きっと忘れているだろう。
色々とハメられて追い出されたが、指名手配などにならないだろうし、
なによりどうでもいいことだったしな。
あれから2年だ。
死んだものと思っていてくれれば動きやすい。
俺が居ない間にこの町も多少発展はしたようで、町の規模はやや大きくなったように思う。
町の中に入ると、中央部には勇者の銅像が建っていた。
「天堂裕介」
勇者としての資質を持ち、3度にわたる魔王軍との戦いに勝利。
記念に銅像を建立す。
なんなんだこの悪趣味な銅像は、そしてこの説明文はなんだ
誰の趣味だっていうかおかしいだろ頭が
「この方が同級生?という方ですか?」
「ああ、そうみたいだな。ちょっと頭がおかしくなったみたいだけどな」
「勇者、ですか敵ですね。」
「て、敵ですね」
だけど良く出来てるな。
イケメンなところも、憎たらしく良くできている。
なんとなくボーっと見ていると、話しかけられてしまった。
「おい、お前西郷か?」
振り向くとそこには見知った顔があった。
かつての同級生の男だ
「上山・・か?」
上山和人、スキル商人を持っていた男だ。
商人スキルはありとあらゆる相場が分かり、交渉術にも長けている。
また、様々な物の価値を見抜く目を持っている。
この町に来た時、唯一この上山だけは俺を見捨てなかった。土木工事に使えるスキルで、俺がいないと町の発展はないとまで言い切り俺に職を与えてくれた。
だが、ほかの奴らは違った。
そんな土木工事など開発した道具があれば俺の穴掘りスキルなどより効率が良いと、次第に俺の仕事を奪って行った。
その時の上山は、王都に店を出すんだと長期間王都に行って不在だった。
まぁ俺はそのまま・・ハメられて街から追い出されてしまったんだけどな
あの時の奴らはいつかぶっつぶす
「聞いたよ西郷済まなかったな。俺が居ればお前の居場所を作ってやれたんだが、本当に済まない。」
上山が頭を下げる
お前はいいんだよ俺のKILLリストには入ってないし
「いや、いいさ遅かれ早かれ追い出されていたさ。上山のせいじゃない。」
かつての学校でも、俺の立場は弱かった。
それを常に養護してくれたのは上山だった。
「俺こそ、上山が用意してくれた仕事を捨てたんだ。済まなかった。」
「いや俺の責任だよ、それより生きていたんだな!良かったよ。」
そう言って上山はチラリとアスカを見る。
今アスカは、頭をすっぽりと覆う革の服を着ている。
俺も革の服だ。
山で手に入るものはたかがしれていた。
獣の皮をなめした服。貧乏くさくて目だってしまったかな?
「なあ、西郷、その人は?」
上山はアスカが誰か気になるかそりゃそうだよなぁ
「俺の婚約者?かなぁ・・・」
たぶん間違ってない、ハズだ。魔王だけど。
ニヤリと笑う上山
「なんだなんだ、幸せそうじゃないか!良かったよ!」
そう笑いながら俺の肩を叩く上山の目には涙がにじんでいた。
こいつは本当にいいやつだよ、本当に。でもなぁ魔王なんだぜ魔王
「とりあえずここじゃなんだ、俺の家に来てくれ。ごちそうするよ。」
そう言って上山は俺達を家に招いてくれた。
二階建て、広すぎる庭。
噴水に馬車、囲うように大きな塀がある。
間違いなく豪邸だ。
そこで客室に通された俺たちの前にはガラスで出来たグラスで
飲み物を出されていた。
山では木のコップしかなかったからなんか懐かしい
「まあ、飲んでくれ。新商品のジュースだ。」
雲のような色の液体に氷を浮かべ、良い香りがした。
「うまいな。」
果実のジュースだ。
「美味しいです。」
アスカも気に入ったようだ。
「だろ?自信作さ。東の領土で取れる果実に良いのがあってな、それをここで育てたら大量に実がなったんだ。」
ゴクゴクと飲む。
久しぶりの甘い飲みものは、胃にしみるなあ。
おかわりをして、満腹になるまで飲んでしまった。
一呼吸つくと、
「で、西郷。今まで何してたんだ?」
俺は上山に、あの後のことを話した
追放後、丸2年山で暮らしたこと
そのときに助けたアスカ
無論、魔王の娘、とゆうのは隠して話す
「なるほどな、苦労していたみたいだな。それとアスカさんか。確かに人間の血も感じるが、魔族だな?」
上山がちらりとアスカを見る。
「ああ、分かるのか?」
魔族は敵だからなぁ
「西郷、アスカさんも警戒するな、と言っても無理か。」
ふう、と上山はため息をつくと
「俺はこの2年間色々な所で商売したよ。時には魔族の町でさえな。だから、魔族に偏見はない。」
「大丈夫なのか?」
「ああ、魔族そのものはな。今の所は問題ないんだ。」
上山のセリフを反芻する。どういうことか良く分からないが、ひょっとして
「天堂か?」
「そうだ。今や天堂は国王と同等の権力を持っていてな。裏では魔族の奴隷業まで始めている。」
うわぁ・・痛いなあ天堂なにやってるんだよ。
「魔族を、奴隷ですって!?」
ガタンと音を立ててアスカが立ち上がる
「半年前に魔族、いや魔王軍と停戦協定が結ばれたんだ。人族主導の元にな。」
知らなかった。
上山の話によれば魔王軍の半数を壊滅に追いやった天堂達は、これ以上の戦闘は不要として魔王軍に交渉。
これに最高の交渉術を持っていた同級生が人類に有利な話でまとめたらしい。
そして天堂の本性が現れた
かつての天堂もまた、表では優等生、裏では不良として悪行を重ねていたヤツだった。
俺も何度かカツアゲにあったしな
そして、天堂は捉えた魔族の有効活用として、奴隷として扱い始めた。
男の魔族は労働力として、
女の魔族は性奴隷として・・・・・・
「なんだよそれ」
俺は青ざめる。嫌悪感が止まらない。もしもアスカがそんな目にあってしまったとしたら俺は耐えられないだろう。
「そんな、魔王軍がそんな要求を飲んだのですか!?」
アスカが震えながら、手を握り締める。
「最初は戦犯者を奴隷としていたようだが、さっきも言った交渉術に長けたやつがいてなぁ。いつの間にか一般魔族も対象になっていたんだ。」
俺はかつての同級生を思い返す。
すべてのスキルは、王宮で一人づつ確認された。
そのときのことを思い返す。
まさか、その交渉術を持つ同級生
心当たりがある
「伏見杏香だ。彼女は天才的な交渉術スキルを持っている」
伏見杏香は委員長と言う立場でもあったし天堂の彼女でもあったはずだ
「やはりな」
俺は納得する、
高校に入学した折に天堂のカリスマを見抜いた伏見はいち早く天堂に近づき、恋人の座を手に入れたしたたかなヤツだった。
そして、召還された際にチーム分けをしたのも彼女。
嫌われてた俺は最前線から隔離された。
結果ありがたかったんだけどな
「だから悪いことはいわない。山に隠れておけ魔族の嫁さんが見つかると厄介だ。必要な物があれば俺が用意して届けてやるから。」
ああ、やっぱり山下は良いヤツだな。
だけれど、俺はもう山には帰らない。
だって
アスカを魔王にしなきゃなんないから・・・
もう先手を打つしかないか。
「悪いがそれはできん。俺はー」
魔王を復権させ、天堂を倒すーとは言えないからな
「この町をいただきにきたんだ。」
俺の発言に山下は大して驚きもしなかった。
戦う術はあるのかと確認はされたが。
それを確認するとこの町の手に入れ方を教えてくれた。
「俺は商人だ。町が誰の物でも関係ない。ちゃんと商売できれば良いんだ。」
と言って。
町中の天堂像は、この町を支配する「柊 麻由美」に命令されて山下が建てたらしい。
「儲けにならないことをさせる奴は敵だ!」
とは山下談
おかげで、何をすれば良いかも判明した。
町や街、首都などの領土を手に入れるには、各土地にあるクリスタルを手に入れれば叶うらしい。
クリスタルの大きさは町のサイズに比例する。
クリスタルの役割は色々あるのだが、主にそれを所持することが町の支配者となる最低条件のようだ。
「とりあえず身なりを整えろ、奥さんの分も俺が用立てておく。」
「何から何まで悪いな。」
「かまわんさ、俺の商才が西郷に恩を売れと言ってるのさ」
わははと笑いながら山下は、俺の肩を叩いた。
「柊に会うまでは俺が、お膳立てしてやる。後はお前が柊からクリスタルを奪い取れ。」
「分かった。最悪殺してしまうかもしれんが」
俺は冷徹に言う。
「ま、それは無理じゃないか?柊は武神のスキル持ちだからな。」
なんだよその物騒なスキルは
「まあ、柊はまだ話が出来るはずだ。多分な・・・」
山下は寂しそうに言った
「柊 麻由美」は「武神」のスキルを持つ。
ありとあらゆる武器を使いこなしそのスキルで磨き上げられた肉体もまた、武器として運用する
回復力も尋常ではない。魔王軍との戦いで胸に穴が空いた際も、一瞬でふさがったと言う話もある
そんな化物みたいなスキルを持つ柊は、優しい女の子だった。
昔俺が天堂に殴られ鼻を折った際も最後まで看病してくれたのは彼女だ。
そんな優しい女の子だった
服を一式、山下にそろえてもらった
防具もかねたその服は着心地は良い
着替えると早速出かける
時刻は夜22時といったところだ。
この町の北側へ、1kmほどのはずれに進む、
もはや小さな城と言っても差し支えない建物
そこがこの領土の管理人柊麻由美の邸宅だ。
「おーい!柊いるか?山下だ!開けてくれ」
ドンドンとドアを叩きながら叫ぶ
ガチャリと、ドアを開けたのは使用人の女性
「こちらへどうぞ」
使用人に案内されかなり大きな部屋へ通される。
庭には和風の庭園が広がっていた。なんだか懐かしい。
部屋の床には大理石が敷き詰められている。
なんか成金趣味な感じだな
少し待っていると
「あら、山下君久しぶりね。」
部屋のドアが開いて柊が入ってきた
すぅっと歩く足音がしない
なんだかゾっとするな
そしてそのままソファに座り込む
「久しぶりだな柊、今日は懐かしい友人に会ってな、連れてきた。」
「誰かしら?」
彼女は俺の顔をじっくりと見る。
柊はショートカットの美人でチャイナドレスを着ている
「あ、ひょっとして西郷君?久しぶりね」
思い出したかのようにニコリと笑う柊
だが目が笑っていない。
「ああ、それと、横に居るのは西郷の婚約者だそうだ。」
アスカを紹介する上山
今アスカは真っ赤なドレスを着させてもらっている
これも上山が似合いそうだと用意したものだ
「あらおめでとう、幸せそうね。で、何の用かしら?西郷君殺気が抑えられてないわよ?」
ふん、と俺は鼻を鳴らして立ち上がる
「いやなに、柊が持つクリスタルが貰いたくてな。」
緊張で喉が渇く。
力を入れた俺の手は自然と握りこぶしを作っている
すうっと立ち上がって笑う柊麻由美
だが目は笑っていない。
「なーにバカな事言ってるのよ?あげられる訳ないじゃない。それにそっちの女は魔族でしょ?」
笑っていた柊が急に真剣な顔になり、
「なに魔族なんぞ私の屋敷に、町に入れてんだテメエ!殺されてえのか西郷ぉ!」
凄まじい声が響き渡る、そして「気」かオーラとでもいうんだろうか、柊麻由美が青いオーラを纏った
「だいたい西郷、テメエは逃げ出した弱虫だろう?魔族の不細工な女連れて何やってんだ!この変態がぁ!」
そして狂ったように笑いながら叫ぶ
「くっ、おい山下、どう言うことだこれ!」
柊の放つオーラの風圧に耐えながら叫ぶ
吹き荒れる嵐の中にいるような感覚だ。
沸点が低すぎるだろう!この怒り様は!
目の前の柊を見るとぶわっとその姿が歪む。
ドスッ
柊に殴られた!?
苦しんで体をくの字型に曲げるも胸ぐらを捕まれ、持ち上げられる。
片手で、だ
「おい西郷、あんまり調子のんじゃねえぞ?」
そう言うと柊は俺に頭突きをする
額が割れたのか吹き出すように暖かい血が流れ出す
「カッ!キタネエ血をかけんじゃねぇよ西郷ぉ」
俺の返り血で真っ赤に染まってゆく柊麻由美
そのまま片手で、俺は固い大理石の床に叩きつけられた
物凄い音がして俺は苦痛に襲われる
「ぐふっ」
背中が割れる様に痛む、骨にヒビが入ったかも知れない
「西郷ぉ」
にやにやと笑いながら柊は俺をいたぶっていく
これがあの優しかった柊か・・?
バキッン!
柊の拳が俺の腕を殴った。
骨が折れたかのような嫌な音がした。
胸ぐらを捕まれたまま俺はいたぶられる
振りはだこうにも柊の力が凄くびくともしない
「西郷ぉ、私はアンタの事気に入ってたンだけどねぇ?あんなクソ魔族が嫁だって?笑わせるねぇ」
口の中に血の味がする。
これが、武神のスキル持ちか
ヤバすぎる!しかも実力のほんのわずかも使っていない、そんな気がする。
勝てる気がしない、だがここで折れてはアスカを魔王になんてできないじゃないか
力を振り絞って俺は言った
「な、なんだ柊、俺の事が好きだったのか?だけど俺はお前なんて趣味じゃないんだよ」
ほんの少ししゃべっただけで血を吐いてしまう。
怒りに満ちた柊の右腕が上がる
「調子のんじゃねぇ、もう死ねよぉ」
柊の目がヤバい。コイツは本当に殺す気だ。
「や、やめてーーーーッ」
アスカ止めようとして柊の足にしがみつく
それにイラついた柊は
「何触ってンだこのクソ魔族がっ!」
振り上げた腕でアスカをはじき飛ばした
魔王としての覚醒が終わっていないアスカはまだ何の力もない
俺が戦うしかないのに俺は何をやっているんだ!
はじき飛ばされたアスカが壁にぶつかり崩れ落ちた
意識を失っている
「キタネエなあー西郷ぉ。仲良く殺してやるから、あの世へ旅行にでもいきな」
柊はついにトドメの一撃を打つ気だ
俺はアスカの方をチラリとみると
崩れ落ちたアスカから血が流れていた
それを見た瞬間
俺の中で何かが弾けてキレた
マーストの町 辺境の最果てにある。珍しい動植物も多いため、期待されている
町はクリスタルによる結界で保護されている。だが持ち主を選ぶ
天堂裕介 称号スキル 勇者 複合スキルなので出来る事は多い
上山和人 称号スキル 商人 物品の鑑定や、交渉術など
柊 麻由美 称号スキル 武神 ありとあらゆる「武器」を使いこなす。肉体も含む