14話 囚われの王女
彼女は王族ではないー
だが、異世界人の血を引いていたのか、鑑定石に触れた時に奇跡とも言えるスキルを引き当てた。
「聖女」
正確には、「聖王女」称号レベルのスキルである。
そして、そのスキルは現王族以外が取得することが常であった。
過去の聖王女のスキルを得た者は、次期国王となるべく運命が決定付けられる。
またその称号ゆえ、女性にしかそのスキルは取得できない
だが、この国の王は代々男だ
これはどういうことか?
それは「聖王女」の存在を隠蔽、監禁
そして
無理やりに子供を産ませ、世継ぎとする。
そうやって、この国は「聖王女」を利用し、そして隠蔽してきたのだ。
世継ぎを産んだ聖女はそのまま隠蔽される
この国では彼女は王に、なることはない。
搭は城の敷地内に建てられている。
だが警備は厳重で、誰一人として入ることはない。
入口には2人の衛兵。
彼らは「守護者」のレアスキルをもつエリートだ。
「守護者」スキルレベル2
対象を守り抜く力
害なすモノを察知できる
魔法防御 剣術・槍術・斧術
彼らは何を守っているかは知らされていない
だが、搭とその中の人物を守れと、命令をうけている
たとえ、魔族が攻め込んできて城が落とされ、王が死んだとしても、守れと
「なぁ、召喚者ってあいつらどう思う?」
「あー、異世界の。」
搭の入口に立てられた小屋の中に、二人はいた。
「そうな、可愛い子、多かったよな」
はははと笑いながら、食べ物をつまむ
「お前なぁ・・。けど、分かるわそれ」
「だけど聞いたか、あいつらのスキル」
「ああ、聞いたさ。凄まじいレアスキルのオンパレードだったんだってな」
「奇跡のギフトって呼ばれてるらしいぜ」
「本来は俺達も、レアスキルなんだがなぁ」
「ま、しょうがないさ。ここはここで一応エリートなんだからいいじゃねえか」
「そうだな」
召喚者は、現在は王宮内だけではあるが様々な噂となっている
見た目が人族とまったく変わらない事もあり、好意的に受け入れられている。
ただ、召喚者で髪の色を抜いたり、染めたりはあるので
若干それが魔族と似ている
髪の毛色が派手なのは魔族とにているからだ
金髪にしている者もいるのだが、それは異世界人だから
で、片付いてしまっていたりする
「そうだな、俺達が守っているのは超がつくレアスキルだって話だしなぁ」
「おいそれは外で言うなよ?」
「分かってるさ」
そして酒を飲む二人
「もう少ししたら見回りに行くんだ、程ほどにしとけよ」
「分かってるって」
それを外で聞き耳を立てる影が二つ
「ねえ、何のつもりよ・・」
伏見京香が訝しげにひそひそと言った
「聞いたか?超レアスキルだってよ」
西郷がおなじく、ひそひそと喋る。
「聞いたけど、何かマズい雰囲気じゃないこれ・・」
「なんだよ、王様洗脳しようとしたやつのセリフじゃないな」
「そうだけど!ていうか、なんでアンタには洗脳きかないのよ!」
「はは、秘密だ」
実際、伏見は何度も西郷に洗脳を試みている
そして全く西郷が洗脳されない事に、自身のスキルは効かない人間がいるのではないかと思ってしまっている
初日にスキルを得ていた伏見は
王宮で数名を洗脳、操っている
その時、王を含めて問題なく操れた
同級生に試してみたかったが、まだ、良心が引き止めた
だが、色々と考え、計画する
そして今夜、実行に移そうとした時にタイミング良く邪魔をされ、そして西郷にスキルを使おうとしたのだが、彼は洗脳されなかった
「さて、と。じゃあその超がつくレアスキルとやらを拝みにいきますか。伏見、衛兵を洗脳してくれ。」
しれっと言い放つ西郷に
「ちょっと、効かなかったらどうするのよ?」
「大丈夫だろ?信じろ」
自信満々の西郷が言った
ドキリとした。
元々伏見京香は、自信に溢れた男に弱い
だからあの天堂に惚れていた
だが今の西郷は、自信に溢れているし、何よりも笑顔が優しかった
それが伏見の理想に近かったのは言うまでもない
「わ、分かったわよ。で、どうしたらいいの?」
「簡単だ、俺達は見えないし、聞こえない。それだけでいい」
コクリ、と頷く伏見
伏見のスキルが発動した
「良いわよ」
「よし、良くやったな」
また、ドキリとした。
優しくされる事に慣れていない伏見は、
(な、なんで西郷なんかを天堂くんと比べてるのよ私は!全然違うじゃない!だけど・・・)
少しづつ西郷に惹かれていく。
「おい、行くぞ。」
小屋から鍵を持ち出した西郷と伏見は塔へ入っていく。
何故か地下へと降りようとした西郷に
「ちょっと、上はこっちみたいよ」
「ああ、上はダミーだ。本命は地下にいる」
「な、なんでそんな事知ってるのよ!」
「さあ、何でだろうな」
下へ進み、長い廊下を突き当たる。
そこには鉄格子の牢屋があり、何故か不釣り合いなほどに綺麗なシーツが敷かれたベッドがあった。
そこに眠る1人の少女。
「ちょ、だ、誰かいるわよ。」
西郷はチラリと伏見を見ると、鉄格子の鍵を開ける。
ガチリ
キィ
「開いたそ。」
中に入っていく西郷を追いかけて伏見も入る。
すやすやと、眠っている少女がそこにいた。
「おい、起きろ」
眠る少女をゆさゆさと揺する。
「ん、んー」
「だぁれ?」
目を擦りながら、むくりと起き上がる少女
「助けに来たぞ、お姫様」
「ふえ?」
寝付いたばかりなのか、少女は西郷を見ながらぼーっとしている。
「いい加減起きろ、出してやるから」
その言葉に反応して、少女は
「ほんと!?」
「ああ、本当だ。付いてこれるか?」
「うん!」
元気よく、相づちを打った。
現在の時間は22時といったところ
この世界に来て、1ヶ月が過ぎていたあたりだろうか。
西郷にははすでにもう軽く20年以上ここにいる記憶がある。
聖王女の事は、天堂と伏見がこの国を完全に乗っ取った時に発表された。
旧王族の悪事を暴く感じで
それを口実に、聖王女を担ぎ、自らを保護者として、この国を操り始めたのだ
その時は、ふうん、となにも興味はなかったが
搭から少女を連れ出し、無事に
寮に戻る
そして部屋の中にこそこそと入っていく
「ねえ、西郷くんこの子だれ?」
「ん?ああ、まだ知らないのか。聖王女のスキル持ちのユキちゃんだ」
「ユキちゃん?」
「確か、綾小路 雪 って名前じゃなかったかな」
「そうだよー。良く知ってるね、お兄ちゃん!」
「ちょっとまってよ、それ完全に日本人の名前じゃない!?」
「俺達以外にも、日本人はこの世界にいるんだぜ。ま、この子はこの世界生まれだけどな」
「そ、そうなんだ・・・なんでそんな事知ってるのか、ちゃんと説明してくれるんでしょうね?」
「まあ、気が向いたらなー」
「気が向いたらって、そんなんじゃだめよ!」
「ミステリアスでいいだろ、俺」
伏見はドキリとする。この男には私の心が読まれているんじゃないかと、思ってしまうほどに西郷の言葉が心地よかった
「まぁ今日は遅いが、伏見にはやっておいてもらわないことがあと一つあるか」
「次は何よ。もういいわ、なんでも聞いてあげるわよ」
ふう、と、観念したかの用に伏見は笑顔をこぼしながら言った。
「なに、お前には簡単なことだ。みんなの記憶を変えてほしい。この子がまだ搭に居る様に王様連中の記憶をな」
うつむく伏見
ほんの少しだけ、間があいて、
「それはいいんだけど、どうしてなの?」
「なんでって・・説明必要か?」
「そうね、是非聞かせてもらいたいわね」
なんかめんどくさい。しかし彼女は共犯で、ほうって置けないスキル持ちでもある
「うーん。今夜中にここ抜け出してユキちゃんを人に預ける予定なんだわ」
「へえ、それで誰に預けるの?」
「何の為に預けにいくの?」
「あー・・・それは言えないかな・・・」
「なんで言えないの?」
なんだこれ!なんだこれ!
なんで俺こんなに責められてんの!?
返答に困るじゃないか・・・
「言えない様な事をしにいくのね?」
「そうじゃないけど」
だんだん伏見が怖くなってきた。
「いいわ、私も付いて行く。それが条件」
にこり、と伏見は笑い
「じゃあこれからみんなの記憶改ざんしてくるから、待っててね」
そういうと振り向き、部屋のドアを開ける。
「ちょ、っとまってくださ…い」
全部言い終わる前に出て行ってしまった
すうすうと、いつの間にか横で雪ちゃんは寝入っていた
綾小路 雪 称号スキル 聖王女 まだ目覚めてはいない