13話 召還の日・もう一度はじまり
ガヤガヤと騒がしい室内に俺は居た
懐かしい、独特の臭いがする
間違いない…あの時の王宮だった
ぐるりと見回すと、そこには知った顔がいくつもならんでいる
皆まだ若いな…
あ、田中先生だ
目が合う
だが、ふいっと他を向かれてしまう
そうか、この先生はまだ何も知らない先生か
少し、考えていると
「西郷くん?」
振り返ると、そこには水田蛍と山根静香が居た
「水田、山根、どうした?」
「え?」
そうか、二人にも記憶はないのか
「どうしたのかなと思って。先生の方ばかり見てたから」
「なんでもないよ、山根さん。それより今俺達の置かれている状況を教えてくれないか?」
「え?、えーと、今日は第3陣の鑑定式だよね、スキルの」
「なるほど、ありがとう」
そして二人は衛兵に連れていかれた
きっとこれから占いと料理のスキルを得たと知らされるのだろう
しばらく待っていると俺のもとにも衛兵がやってきた
「ほら、お前が最後だ。早く来てくれ」
廊下に連れ出され、そのまま向かいの部屋に通される
窓も何も無い、ランタンの明かりだけが便りの暗い部屋
その部屋の中心には、国王、衛兵、そして鑑定士が並んで俺を待っている。
鑑定石指差し、
「そこに手を触れたまえ。両手でだ」
言われるまま俺は手のひらを鑑定石に触れる
この冷たい感覚も久しぶりだな
キィン!
うっすらと鑑定石は輝く
だが、俺は知っている
この鑑定石にはもう
ろくすっぽ何のスキルも残ってはいない事を
「石を飛ばす」
「穴を掘る」
二度目の量産型の魔法スキルを、俺に告げた
それはそこにいる鑑定士、いや、スキルメイカーが作り出せるスキルだ。
鑑定石も、本来はスキル貯めておける石
歴代のスキルメイカー達が、その力を持って石に作り出したスキルを溜め込む。
結果、石の中でスキルは混ざり合い、化学反応が如く新たなスキルとなる
それに触れた者に順に、ランダムにスキルを付与していくのだ
そして異世界人にスキルを付与した場合、何故か強力なスキルをが石から引き出されやすいといった事が起こる
この元からこの世界の住人である人類には、弱いスキルしか引き出せない
理由は不明
だがそれゆえに、俺達は召喚されたのだ
石の輝きが薄れてゆく
「よし、これで全員に行き渡ったか?」
王が、安堵した表情をみせていた
部屋に戻される
ざわざわと、お前なんのスキルだ?とか嬉しそうに話している生徒達だ
その部屋の片隅でチラチラとこちらをうかがう少女が1人…
俺は少女にゆっくりと歩み寄ると、
「先生?」
と、
「はぁー、良かった。成功したみたいですね」
安堵する少女先生
「はい、この状況、懐かしいですね」
「ええ。そうですね。ああ、やはり魔王覚醒がおきたら世界は崩壊しました」
それは先程までいた世界が無くなったと言う事だった
俺は右手を差し出す
「やりましょうか」
俺の差し出す手を、先生は握り握手をした
自分の中に、きぃん…と静かな音が響いた
二周目と言う、自分自身の知識が自身に流れ込んで来る…
先生と何をするか相談したことも含めて、把握する
「じゃあ先生は前回同様にアスカさんを助けます。そうしたら、戻ってきますので頼みましたよ」
「もちろんです。じゃ、またそのうちに」
俺がそう言うと
スゥッと、先生の姿は消えた
「さて、部屋に帰るか」
いつの間にか生徒達は移動していた。与えられている部屋に戻ったのだろう。
王宮の傍に建築されている、異世界人用の宿泊施設に向かう
こんな物を用意してから俺達を読んだという事は、やはりかなり計画的なものだったのだろう
廊下にはスキル取得リスト一覧が張り出されていて、
一番上に
スキル英雄 天堂 と書かれていいた
俺の名前は下の方にあった
クソスキルと書かれている
そうか、こんな事もあったな
そして、杉下は、やはり居ない。
彼のスキルは「断罪」あの勇者スキル持ちですら道を誤れば、一刀のもとに断ち切る力がある
この王国の隠し玉であり、暴走した天堂を止めるストッパーとなる運命だった
そして今回、勇者スキルは現れていない。
深夜、俺は寮の前に立っていた
ある人物を待ち伏せするためだ
戦闘になるかも知れないからな
「あら、西郷くん。こんな夜中にどうしたの?」
「ああ、委員長、ちょっと人を待っていてね」
「早く寝なさいよ。明日からはこの世界の歴史の授業があるわよ」
「真面目だな、委員長は」
「じゃあ、早く寝なさいよね」
そう言うと委員長は、そのまま外に出ていく。
俺は追いかけ、そして
「なあ委員長、アンタはどこに行くんだよ。寝なくて良いのか?」
「ちょっと用事よ。ついてこないでくれる?」
「いや、そうもいかなくてね。謀略スキル、洗脳スキルの伏見委員長さん?」
ピタリ、と立ち止まり
背中を向けたまま。
「どこで聞いたのかしら?」
「スキルのことかい?」
「ええ、私のスキルは、交渉術スキルになっていたハズだけど?」
「それを言うなら、俺のスキルは投石に穴掘りスキルだもんなー」
うふふ、と伏見は笑う
「そうね、そうゆうことはあなたもスキル隠したのね?ほら、私のスキルってなんだか人権侵害しちゃいそうだし、なんだか真っ黒って感じじゃない。だからね、隠したのよ」
「あー、わかるわ。委員長マジ悪女って感じだもん。傾国の美女みたいな」
「あら、ありがとう。美女だなんて」
「でもさー、王様とかみんな洗脳しちゃうのはどーかと思うんだよ。」
ビクリ、と背中が震えた
「そんな事してないわよ」
「そうだな、まだしてないけど、これからやるんだろ?」
くるり、と伏見は振り向くと
「西郷くん、あなた、何を知ってるの?」
鋭い目つきが俺を貫く。
「知ってるさ、全部な」
「ふざけないで!」
「ふさけてないさ。アンタはこの後、王宮の人達全てを洗脳、そしてそのままこの国の実権を握るだろう。そして異世界人に対する待遇向上をする気だろ?まあ、特別扱いするヤツもいるけどな」
伏見が驚いた顔をする。
「あ、あなたが持ってるスキルは何?な、なんなら私達の側について一緒にこの国を支配しない?」
「ふん、この事は天堂は知ってるのか?」
「いいえ、彼は知らないわ。」
「私達と言ったな。その中に天堂は居ないと?」
「そうよ」
真実だな。
だがまあ、そのうち天堂が気づいて好き勝手やるんだが。
俺の記憶だと、私達の達ってのはないな。
まだコイツは一人だけのはずだ。
「まぁいい。何も知らないよりは知っておいていいだろ。ついて来いよ」
そう言って俺は城と離れた塔に向かう。
「何をする気・・・・」
「そう警戒するな、変な事はしねーよ」
そう、この塔には現在魔王と対を成す存在の
「聖女」様がいるからな。
王国最強の「聖女」様が。
伏見委員長 スキル 謀略 洗脳 委員長だけあって、本来は自身の為には能力を行使しない性格である 誰かの為に動く