12話 田中先生が語る秘密のひとつまみ
最初の異世界
田中鉄雄が、初めてこの世界に召喚された時だ。
その際の転移者は500名ほど。
学校にいた全員が転移して来ていた
魔王軍との戦いは、その後直ぐに起こっていた
天堂が勇者スキルにより、有利に戦闘を進めているのはこのときも今回も変わらない。
田中は世界放浪の旅にでる。
2年後の、人類の勝利が確定しかけていたときだった。
その時田中は一人の魔女に出会った。
彼女の名前は、「田中」
奇妙な偶然もあるものだと、田中は思ったのだが実際はそうではなかった。
彼女は田中本人であった。
曰く、二度目だと言う
一度目の自分と出会い、一度目の探索速度を向上させなければならず、彼女・田中がこの世界で収集した知識、それを本人に伝えるためにこの姿になったと。
そして、彼女・田中は、
「魔女なんておこがましいが、俺は自分自身に知識を伝えることで、今現在の自分が成長する。そして、この世界での何十年先の知識をお前に出会うだけで手に入れることができる」
つまり、出会ったことによる起こる変化が、目の前に居る彼女・田中に現れると言う事だった。
だが、その知識はともかく経験は出会うだけでは手に入らなかった。
一度目の俺はあくまでも放浪の旅を続けねばならない。
それが二度目の彼女・田中への知識になるわけだから。
当然のように、魔女といわれるだけあって様々な魔法を使えるようになっているようだった。
このとき、転移していた500名の生存者は490名。
放浪をしてさらに2年、行く先々で彼女・田中の手助けを得ながら探求を進める。
田中が日本に一度戻るまで、あと20年だそうだ。
一度目は知識を得るために費やした
二度目は技術を手に入れるつもりみたいだった
5年後
この時点で、490名は100名程に減っている。
放浪の旅の中で、伝令が来た。
魔王軍攻略は成った。
だが、平和にはらなかった。魔王軍とは、我々のイメージとは裏腹に、そもそもが敵では無かったのだ
その魔王軍を外側からも内側からも崩壊せしめたあの国王の罪は重い。が、操られてしまっていては仕方ないのだろう。
操っていた犯人は勇者である天堂と、予言者伏見。
2人は処刑されたと聞いた
処刑したのはここに居る杉下雄二
だが、これは愚策であったとしか言えないのは後の数年で転移者の生存が10数名であったことが語っていた
あまりにも凄惨な状況をどうにかするために
この世界に転生することにした。そのためには、別人にならなければならない
きっと俺はあの少女・田中になるのだろう。
そのための知識とスキルを日本へ持ち帰ってきた。
22年かかったが、無駄とは思えなかった。
日本に帰ってきて、わかったこともあるがこの事実は衝撃が強すぎる。
彼らには伝えられないだろうし、伝えても無駄だ。
彼らが生存したまま帰れるタイムリミットはおおよそ10年といったところだろう。
田中は、全員を連れ帰るつもりである
帰りたいと願う者は全て
手に入れた技術で500名の転移を阻害する。彼を含む数十名だけを、あの世界に召喚されるように手配した。
犠牲者は少ないに越したことは無い。
だが、行かずに済む選択肢は無かったのだ
二度目はうまくやると決めた
二周目
うまく転生できたようだ。
あの世界への生まれ変わり
魔暦550年
あと5年後、自身を含めた数十名が転生してくる。
彼を待つ。自分だ。
それまでは得た知識とスキルでこの世界をのんびり探索でもしようか。
ここに来て、気づいてしまったー
分かってしまった。
失敗だ。
これは三度目が必要かもしれない。
協力者が必要だ
あのときは分からなかったが、この世界には今、魔王はいないのだ
魔王が居なければ、真実はつかめない。
また、魔王を生存させ、人類と魔族の共存と反映を勝ち取らなければいけない
おおよその情報は集まったが
魔王のもつ、魔王のスキル
想像だがまちがってはいないだろう。おそらく魔王はー〇である
そしてそのスキルは血縁のみに継承されていく。
だとすれば、魔王の血縁の、あの少女を救い出し、しかるべき道へ進めなければ。
そしておそらく、魔王のスキルには世界の秘密があるはすだ。
二度目をやり直す。そして確認したのちにもう一度、転生をしようか。
田中、三度目の転生を成す。
自身は三度目だ。だが、これはまだ二周目のやり直しである。
魔王の娘である少女の救出は成功した。
だが、私自身の関与はなるべく気づかれないようにしないといけない。
あくまでも自然に。
その後少女は、西郷くんに助けられたようだ。
だが・・・なぜ西郷くんが?
そしてその理由がはっきりしたのはそれから数年後だった
ある日、成長した西郷くんに出会った
なんと彼も二周目だという。
そして、あの少女を助けるのだと言う。
私が少女を救出したことにより、西郷くんの二周目が生まれたようだ。
だが、二周目の西郷くんも失敗したという…
ゆえに、私に協力を求めてきたのだ。
真実により、近づいた気がした。
そして、もう一度やり直すことが必要だと、
二人は同意する
全てを知りたいと願った男と。
手に入れたいと願ったがゆえに、それを守ろうとした男のやり直し
彼の全ては魔王のために。
私の全ては魔王のスキル、ひいては皆のために。
一夜をかけて、先生は話した。
杉下は興味がないのかさっさと寝てしまった
俺は先生の話した話が何故か、すっと胸に落ちた気がする。
魔王の覚醒
それは王冠があろうがなかろうが必ず失敗すると言う
「でも、歴史がめちゃくちゃになるんじゃないですか?」
水田がそう言った。その意見には、ああ、そう言えばという感想しかなかった
しかしながらこのままでは彼女が死んでしまうのだから、やり直してなんとかなるならやり直すべきだ
「みんなに不幸な未来が待っていて、何とかする力があるんです。だから、何もしないわけにはいかないじゃないですか」
先生はそう言った。それに同意した俺達にこれからを話し始めた。
「西郷くん、君には三周目が待っています。正確には、二周目をやり直すのですから三周目ではありませんがね」
「先生、それは何が違うんだ?二周目をやり直すのと、三周目と。同じに思えるんだけど。」
「まあ大違いですよ。完全な状態から二周目を始める事が出来ます。ま、みんな大好きな、今度こそ本当のチートスタートですよ。今から君は、私のスキルで、一周目……今回君が得たスキルと知識を全て持ってあの日に帰って貰います。」
「あの日?」
あの日とはどの時だろう?
アスカとであった日か?
それとも三年前か?
「この世界に転生してきた、その瞬間です」
まさかのあの瞬間からかよ
「それで、良い方向に行くのか?」
「いくのではありません。いかすのですよ。君がね。」
「てゆうか話にあった二周目の俺にはまだ出会ってないんだけど?」
「それは彼の記憶を渡します。すでに彼はもう居ません。なぜなら魔王覚醒が始まった瞬間に彼は失敗したのですから……それに彼の二周目は、私の二周目とまた違うやり方でしたからね。だからこそ、私に協力を求めてきたんです」
「そうか、まあいい。先生の話を信じれば、俺には選択肢はないようだからな。水田は、良いか?」
水田と目が合う。
彼女はにこりと、笑う
「西郷くん。お願いだから…助けてね」
「ああ?当然だろ」
「じゃあ、よろしいですか?西郷君すぐに今から始めますよ」
「ああ、いいぜ。」
いつの間にか寝ていたはずの杉下が起きていた。
「西郷……、天堂を頼む…」
天堂か…杉下が「断罪」した杉下の親友
先生のスキルの光が、俺を包み込んで、俺は消えた
「水田さん、辛い選択肢をさせましたね」
西郷が行く先に、西郷の事が好きな水田は居ない
そして今この瞬間に消えた彼を追うことはできない
「良いんです。きっと私は何度でも彼を好きになるから、あの人が大切で好きな人を護る為なら私の恋心なんてどうでもいい」
「そうですか……そろそろ彼女の覚醒が終わります」
ぱきぱきと何処と無く音がする
「え?」
「今回、君たちは王冠を手に入れてないので覚醒の先延ばしはできません。本来であれば、30年は耐えれるはずですが……本当に予想通りに…世界が滅ぶ…と…」
水田には田中先生が言っていることが最後まで聞こえなかった
そして、田中先生も最後まで言う事が出来なかった