10話 魔女の元へ。
馬車で3日。
何も無い地平をガタガタと揺られて行く。
馬車の乗り心地と言うのは、存外に酷い。満員電車で立っているのと、どっちが酷いんだといわれると甲乙つけがたいほどに。
当然この世界では舗装などされていないし、時折ある石畳などは土よりも車輪が良く跳ねる。
そうすれば馬車の中で座っている俺達も跳ねる。
荷物などは跳ねないように、硬くくくりつけてある。
そういえば、昔はこういう馬車で牛乳を運んでいたら、中でチーズになってたとかあったんだっけ。
あれ?あれは船だったかな・・・ラクダだったか。
とまあ、とにもかくにも馬車の乗り心地とは酷いものなのである。
だが転移魔法が使えない俺達は、地道に進むしかないのだ・・・・
西郷は馬車の前に座り、馬のたずなを持っている。
この世界にも牛や馬はいる。もちろん、豚や鶏もいる。そのあたり元の世界とは変わらないのだが、漫画やラノベのファンタジー世界
にいたようなモンスターもいる。
この世界の、進化の謎である。
「もうそろそろ着くかな・・・」
「そうだねー。」
柊は暇をもてあまし、馬の上に逆立ちをして、指2本で支えている。
「なぁ、暇なのはわかるけど、修行かそれ?」
「えー。やだ、暇つぶしですよー」
なんだ、ただのバカだった。
「そういえばさー私まだ聞いてなかったんだけど、西郷君て、なんでアスカに惚れたの?」
「あー、柊とかにゃ、まだちゃんと話してなかったな。」
そういえばここまでの旅の行程は、駆け足だったな。
なにも考える暇も無いくらい、色々な事が起こった。
「この世界に来て、本当にゆっくりしたのって柊はいつだ?俺は、アスカと暮らした、たった半年なんだ。」
「へぇ、私は。。あの町の屋敷に入ってからかな。それまでは、戦争してたし。」
「そうだったな、優秀なスキル持ちは全員魔族と戦争してたんだっけ。」
「そうねー。でも、あの戦争って何か変だったのよ。ま、何が変だったかはわかんないけどね。生死はかかってたけど。そんなことよりアスカとの話!」
「んー俺ってさ、人に優しくされた・・いや、女性に優しくされたことってなかったんだよ。
そうだ、元の日本でも俺は冴えない男だった。
子供のときから、ずっと、ずっと。
「あー、それで惚れちゃったと。ちょ、ちょろいね」
「うん、それでさー告白したのはいいんだけど。まぁ、アスカが人間だろうが魔族だろうが良かったんだ。でもさすがに、魔王の娘とは思わなかったけど」
「なるほどねー。いんじゃない、そういうのも。魔族が悪だっていう、この世界の人間のルールに従わなくてもさ。むしろ外人みたいなもんだとおもえばいんじゃないの?魔族って」
あ、そうか。。。なんか違和感あったんだ。
それがわかった。柊の言葉で。
この世界に来て、いろいろな情報を入手したのは王国だ。
当然、王国に都合の良いことしか教えられていない。この世界にはネットもTVや雑誌もない。
何が正しくて、何が悪いのかすら、王国に教えてもらったのを鵜呑みにしていた。
だけど、俺は山に逃げたとき、助けてくれたのは魔族の師匠。
そして、救われたのはアスカという魔族。
ひょっとしたら、片方の視点だけで本当の事が見えてなかった違和感なんじゃないだろうか。
上山はそのことをわかってたんじゃないだろうか。
だから、支援を?
帰ったら聞いてみるか。
「お、見えてきたよ。あのデカい森の横にある、ログハウスじゃない?」
柊と雑談かましているうちに目的地に着いたようだった。
近づくと、尋常じゃないほどのデカイ森、その入口にある、ログハウス。
ベランダにはハンモック。二階建ての屋根には煙突。
そして、家を囲むように柵がある。
そこにつくと、ベランダの椅子に座る一人の女性が居た。
髪の長い、黒髪の女性。
「すみません、えーっと・・・魔女さんですか?」
「西郷君、魔女さんなんて名前の人はいないわよ?」
知ってるわボケ!なんか美人オーラ感じて緊張してるだけだ!
「いらっしゃい。あなた方人間ねー。こんなとこまでよく来たね。」
長い髪をふわりとかきあげながら、にこやかに、さわやかに笑って出迎えてくれた。
「私の名前はアリス。魔女さん、じゃないよ。」
ふふふと笑う彼女はー
どう見ても小学生くらいにしか見えない子供だった。
「そういえば、なんで魔女なんて呼ばれているんですか?」
「バカだなー西郷君は。それはねー」
「それは?」
「魔女だからに決まってるじゃないか!」
え?コイツ何言ってんだ?
「正解♪」
え?正解なの!?
そもそも魔女とは何か、を聞きたかったんだけどなぁ。
「で、何の御用かしら?」
「それはですね。」
俺達は今までの経緯を話した。
魔族の街へ行ってからのことを。
最初は、ふんふんと楽しそうに聞いていたのだけど。
「アスカ」の名前を出すと、とたんに表情は険しくなる。
そして、
「魔王の娘かぁ・・・」
「アリスさん、知ってるんですか?」
「ああ、知っているよ。幼い頃何度か会っているしね。そうか、そろそろだね。」
「そろそろ?」
「ああ。力の覚醒だね。」
それか。以前・・・洞窟を出るときに言っていた、魔王の力。
「魔王の一族にはね、代々の能力を受け継ぐスキルがあるのよ。」
「スキルで?」
「継承スキル、ね。先祖代々に遡り能力を受け継ぐ。故に、魔王となる。」
「それは記憶も?」
「うーん。そこまでは知らないなあ。私のお師匠様なら知っているかもしれないけど。でもま、覚醒はじまってるならヤバイね。じゃ、ここに呼んでおくか。」
そういうとアリスは、庭まで出て行き、杖を掲げる。
キィン
と、碧く輝く魔法陣が浮かび上がり、ぶつぶつと呪文を唱えている。
すると、ズシンッと・・
街にあるはずの、家が目の前に現れた。
「えええええええええええええええええええええええええ」
俺と柊は絶叫した。
そして、その現れた家のドアをあけ、ドタドタと入っていく。
「アスカッ!」
部屋のドアを開けると同時に叫ぶと、
「うわっ!西郷君!?どうしたの?もう帰ってきたの!?」
「お、おかえり?」
そこには山根と水田が・・・アスカがいた。
「ほいっと、おじゃましますよー」
アリスが入ってくると、汗をかいて寝込んでいるアスカを診る。
「うーん、やっぱ間違いないかー。覚醒中ですねー」
「ね、西郷君この人誰?」
「あ、魔女のアリスさん。アスカの事を話したら、、、なんて言えば、、」
うまく説明出来ないな
「ダメねー西郷君。柊様に任せなさい。んとねー、ここは水田ちゃんの占いしてた場所。そこにアリスちゃんいて、で、家ごと転移して持って来ちゃった感じ」
「「は?」」
まあ、そうなるわな。
アリスはアスカに向かい、魔法をかけている。
すう、っと汗が引き、苦しそうな表情が優しくなる。
どうやら楽になったようだ。
「んー、これが限界かなー?覚醒を少し抑えた。あとは、冠がないと力が溢れちゃうな。」
「冠?」
「そう、魔王の冠。」
話はこうだった。
魔王の力が覚醒するとき、一時的に力の器となる、神器が必要になる。
それは森の奥にある廃城、元魔王の城にあるとのことだった。
ちなみに魔王の城は、アリスのお師匠様が転移させて隠したらしい。
「行けるのは2人かな。水田ちゃんが良いか。にしても、ギリギリだったねー。今頃街は魔王軍に占拠されてるよ。」
アリスはそう言った。
どういうことだ?
「力を奪いにきた魔王軍によ。覚醒中ならば、力は奪える。マジえげつないわ。そんなことより、2人は魔王の城に行って、残った2人は念の為にここの防衛ね。正直戦力は全然足りないから早く帰って来てくれないと全滅しちゃうから。」
「わ、分かった。」
俺と水田はアリスが揃えてくれた装備に着替える。
「ま、こんなもんでしょ。城までは水田ちゃんの占いで行けば1日もかからないと思う。あと、アスカちゃんが魔王軍に感知されるまで、そうね、4日はかかるはずだから余裕はあるはずよ。」
「な、なんで私のスキル知ってるんですか!?」
「あはは、魔女だから、よ。帰って来たら教えてあげるから、さっさと行った行った。」
追い出される様に、俺と水田は森へ入って行った。
魔女アリス 称号スキル 魔女 世界の不思議、それが魔女