魔界への扉
「んじゃ、部活始めますかっ」
いつものごとく俺、青葉 真は部活開始の時刻、8時30分にパンっと手を叩く。
俺は理数系が得意なせいか成り行きで科学部部長になってしまい、後悔しているところだ。
「えーと今日の欠席、遅刻は…」
辺りを見回し、また「あいつ」がいないな、と遅刻の欄に書こうとしたその時…
ガラガラガラッ
「遅れてごめんなさいっっ!!!」
勢いよく開いたドアと共に威勢のいい声が部室内に響き渡る。
「おいおい、莉華…また遅刻か」
そう、こいつ…朝倉 莉華は馬鹿かと思うほど毎日のように何かしらの理由で遅刻して来る。
まあ幼なじみだし、慣れているのだけれど…
「ごーめんごめん。目覚ましが30分遅れててさ〜」
莉華は苦笑いしながら頭を掻き、言い訳をする。もう見飽きた。
「言い訳はいいから。早く並べ」
俺はくだらない言い訳に眉をしかめ、低い声でそう言った。
「なーにカリカリしてんの?怒るなら目覚ましに怒ってよね!!ふんっだ」
何故か莉華は逆ギレし、そっぽを向いてしぶしぶ端に並ぶ。
「はあっ?なんで逆ギレするんだよ…ていうかセットしたのはお前だろうが」
呆れた言い訳に俺は溜め息をつき頭を抱える。「まあまあ…マコ、部活始めよう?」
そう切り出した彼女は冷たい空気を一瞬で変えるかのように優しい笑みを浮かべた。そうこの天使のような奴はこの俺には勿体ないくらいの彼女、綾瀬 由香里。美人で性格も良く男女問わず人気である。なんで付き合ったんだっけな…まあまた後に思い出そうっと。
「嗚呼…すまん」
色々考え事をし気づけば間を空け返事をした。
俺は彼女にいつも迷惑をかけている気がするなぁ…。まあ原因は莉華だが…
「んじゃ今日は各自作業しててくれ、俺はちょっと用があるんでな」
俺がそう言うと莉華はパアッと目を輝かせ
「やった!!いーっぱいスライムつくれるー!!」
そう言い放った。周りの目線など気にもとめず…
「…ったく莉華は本当に餓鬼だな」
俺はまたも深い溜め息をつき、やれやれと言った表情で部室をあとにした。
「えっと?此処か?理科準備室ってのは…」
理科室のすぐ隣には薄汚れた看板に理科準備室と書いてあった。
「隣だったのに全然使わなかったな…」
ドアを開こうと手をかけたその時…「うわああああっ」
とてつもなく眩い光が俺を襲った。
すると其処は明らかに理科準備室ではない…いや、この世ではないような場所だった。「んんんー?見ない顔だな!!お前」
幼い声が俺を呼んだ。
ピントを合わせるように目をこすり、瞬きをするとそこには可愛らしい女の子が立っていた。
「えっとその…お母さんとはぐれたのかな?迷子か、」
俺が冗談混じりに焦りながらそう言うとみるみる彼女の顔は赤くなるのを見て感じた。
「お前!!いきなり現れて…失礼だとは思わんか!!この…アホやろう」
彼女は眉をしかめ頬を膨らませそう訴えてきた。そんな姿は駄々をこねる子供のようで…(いや子供だな)正直可愛かった。
「…馬鹿ぁ」
どうしてか彼女は赤面し涙目で俺をポカポカと殴った。
どうやら先ほどの俺の考えていたことがそのまま口にでていたらしい。(それにしても可愛すぎんだろ…)「取りあえず…単刀直入に聞く、此処はどこだ、そして君は誰だ?」
俺はそういえば、と思いだし聞いてみた。
すると、彼女は目をぱちくりさせて「え?此処は魔界だけど?家来になりにきたんじゃないの?」
と言った。
その言葉には俺もつられて目を丸くさせた。
「えーと…全然話がつかめない」
俺は頭の中がぐるぐるとし困惑した。
「俺は理科準備室に来ようとしたんだが…」
「んーじゃあ理科準備室が魔界に繋がってるって事じゃん?」
彼女は小さい胸を張り偉そうに言った。
「…てか君は誰?魔王の子分とか?」
「は?私が魔王だ。」
「え?なんて?」
俺は思わず聞き返してしまった。
「だーかーら、私が魔王なの!!」
やはり返ってきたのは同じような回答だった。
「え?その幼さで?魔法とか使えんの?」
そう、彼女は魔王にしてはあまりにも小さすぎた。
(人間界でいう小学校低学年あたりだろう)
「お前さっきから魔王に向かって失礼だぞ?わしだって立派に魔法は使える、人間なんて簡単に殺せるんだ」
俺の挑発的な態度がいけなかったんだろう。
彼女は人が変わるように冷たい目で低い口調でそう言って、地面を凍らせてみせた。
その冷たさは痛いほど背筋を伝った。「まあとにかくだな、せっかく魔界にきたんだ、その…頼み事を聞いてくれんかな」
彼女は真面目な顔でそう言った。
「とっても大事な頼み事なんだが…聞くか聞かないかはお前さんしだいだな」
「し、仕方ない聞いてやる…」
彼女の圧に押され俺は渋々受け入れた。
「よし!!そうと決まればもうお前はわしらの一員だ。」
「わしは如月 麻里亜だ、まあ気安くマリア様って呼べ。お前は?」
彼女は上からものをいうだけいうと俺に目を向けた。
「俺は真。青葉真だ宜しくなっ」
強く握手した。
マリアはニカッとはにかみくるりと後ろを向くと顔をかえ不吉な笑みを浮かべた。
「これで計画通りに行けば手に入るぞ…クスクス」
俺は簡単に考えすぎていたんだ。
この頼み事が俺の日常を大きく変えることになるなんて今の俺はこれっぽっちも考えていなかった。