おまけ 女子高生後編
そして私は、ここに来て最高の、奇妙な世界を体験した。
「っ……」
「……大丈夫、ここを右……そのまま壁際を……」
お姉さんは、まるで城の中の人と人との間をすり抜けるように、城の廊下を歩き、回廊を抜け、部屋を通り抜けた。
「ここで少し待機……そう、通り抜け……大丈夫、行きましょう」
「……へ、兵士? ……お姉さん、あの集団が来てるって判ってたん?」
「判っていたというか、判ったというか」
「……?」
「はい静かに。お口はチャック、お口はタラコですよ~」
「ツッコミ待ち? ツッコミ待ちなん?」
……まるで、透明人間にでもなったようだった。
城のど真ん中を通り抜けているというのに、誰も私達と鉢合わせないし、私達を見つけない。
「よし――最後は、あの荷馬車の影です。素早く静かに、裏門から城の外へと脱出します」
「ば、バレへん……?」
「……ええ。不慮の事故さえなければ、大丈夫のはず。はい、これ被って」
お姉さんはまるで――人と人との隙間に生まれる、誰もいない誰も認識しない道を知っているようだった。
「出入り商人の荷馬車か。――よし通れっ!!」
「っ……」
「……大丈夫」
お姉さんに渡されたマントをすっぽりと被った私は、こうして大勢の人達に混じって、難無く外に出る事ができたのだった。
「――ふぅ、まずは城脱出成功ですよ~……疲れました」
「……わ……私も……つかれた……よりお腹減ったぁ……っ」
「やれやれ、不慮の事故が無くてよかった。……お嬢さん、これを食べるかい?」
「……あ、ありがとう」
私に近づかないようにしながら、固そうなパンを差し出た勇者さんは、どういたしまして、と言い笑う。
「……ほんま、ありがと……ぅ……」
……そうしてパンを受け取った私は……自分が笑い返している事に気付き、なんだか涙が出て来た。
「――道案内、できる程度の能力?」
ただの固いパンと水が、最高に美味しく感じた。
私は空腹は最高の調味料という言葉を思い出しながら、城から離れた所にある木陰で、二人からもらったパンと水にがっつきお姉さんから話を聞いた。
「ええ。私は迷った人なら、どんな目的地までだって案内する事ができるんですよ」
「……お姉さんのそれってなんなん? 魔法? 超能力?」
「さぁ……よく判りませんけど、でもまぁ、何かが働いているんだと思います。……信じてくれます?」
「……そりゃ、さっきのを見れば。城の連中が全部、お姉さんとグルってのは流石に考え難いしなぁ」
「それは大掛かりなペテンですね」
お姉さんはニコニコと笑いながら話を続ける。
「そういうわけで、ちょっとした事故でこっちに来てしまった私は、日本に帰りたいと願う人を捜していたんです」
「道案内するために?」
「ええ、道案内して、一緒に帰るためです」
「……自分で自分の案内は、できんの?」
「できないんですよねぇ。道に迷って困っている人がいないと、発動しない特技なんですよ」
不便ですよね、とぼやくお姉さんは、やっぱりのんびりしているせいか、あまり困っているようには見えなかった。
「心配はいらない。何年かかっても、娘さんが力を発揮できる迷い人を捜すつもりだったからな」
「勇者さん……ありがとうございます、すみません」
「いいんだ。……元はと言えば、俺のせいだしな」
「いや、あれは事故でしょう。別に勇者さんに引っ張り込まれたわけじゃありませんしね」
……支えがいるからかもなぁ、と、私はお姉さんと勇者さんを交互に見て思った。
ちょっと羨ましい。
「――でも、私の家からは随分離れてそうな人を見つけたのは、想定外だったかな。お嬢さん、関東圏の人じゃないよね? 大阪? 京都? ……あれ、違うな? ……目的地を定めたとき、浮かんだ最寄り駅は……」
「あ、私滋賀です。琵琶湖の近く」
「……しが。……って名古屋の近く?」
「そこそこ近いですけど、でも滋賀は歴とした関西語圏ですよ。特に琵琶湖挟んで西側は」
「そうなんだ……あの辺は行った事ないなぁ」
「お姉さんは?」
「私は神奈川の……」
でもお姉さんが故郷の事を話すと、勇者さんが少しだけ寂しそうな顔をしているのにも気付く。……勇者さんはこの世界の人みたいだし、いずれお別れするのかな、この二人。
「まぁ滋賀ならATMでお金下ろせば新幹線で帰れるし、なんとかなるでしょう。……あ、でも、行方不明扱いになってたら、カード止められてるかな……」
「よく判らんが娘さんは、俺が必ず送り届けるぞ」
「はい、ありがとうございます勇者さん」
うん、と頷いた勇者さんはお姉さんに優しい視線を向けた。
「……」
そんな勇者さんの目がふと細まり、勇者さんは立ち上がる。
「勇者さん?」
「娘さん、その子とその木の陰にでも隠れていてくれ」
「あ、追っ手ですか? もっと逃げるべきでしたね」
「いや、足取りから見て、その子はもう限界だったろう。ここで少し休ませてやるためにも、やはりあいつらは、俺が追い払う必要がある」
「……気を付けて下さい勇者さん」
「ああ、心配はいらない娘さん」
おお……なんだかかっこええ。
ちょっとだけいつか見た映画の恋人同士を思い出しながら、私はすっくと立ち上がった勇者さんを見上げ。
「――では、いつものこれで追い払ってくる」
「はい」
「……えっ」
……そして呆然とした。
「…………え? ……ええと……あの」
「じゃあ、がんばって下さい勇者さんっ」
「ああ、任せてくれ娘さん」
「いやあの、ちょ、ちょっと待って? なぁお兄さん、それってちょっと……」
「大丈夫だ、お嬢さん」
勇者さんは、片手にしっかりと――巨大なタワシを構えて、力強く頷きやがった。
「このタワシにかけて、君達を守ると俺は誓う!!」
「………………………」
――タワシだ。
冗談でも比喩でもなく、本物のタワシだ。
頑固な汚れ掃除の強い味方から、某新婚さんがいらっしゃる系番組のハズレ賞品としてまで、末永く私達に愛されてはいないが認知はされてきた掃除用具を、今勇者さんは手に握り締めている。
「……ええなに? ツッコミ? なんでやねんってツッコミ待ちなんコレ?」
「え?」
「何がですか?」
「……どうしよう。私今、ものすごく帰りたい」
……この奇妙な世界から、日常に帰りたい。
「大丈夫、帰れますよお嬢さん」
「ああ、帰れるともお嬢さん。では、少し待っていてくれ」
そう言って歩き出す勇者さんの歩みに、躊躇いは無い。
その堂々とした背中を見ていると、間違っているのは私の方なんじゃないかとさえ、思ってしまう。
「…………いやいやいや、それはナイやろ?」
「どうしたんですか、お嬢さん?」
「いやいやいやいや。……おかしいよねお姉さん? あの勇者さん、どう見てもおかしいよね? タワシは武器じゃないよね?」
「……ああ、あれですか」
私の指摘に、お姉さんは勇者さんの背中を見つめ、小さく微笑む。
「……勇者さんは、優しい人なんです」
「うん?」
「自分の武器である聖剣は、魔王を打ち倒すために授かったものだと。……その目的を果たした以上、もう巨大な力を奮い誰かを傷つける事はしたくないと、勇者さんはそう言って、敵になった人達に対しても、聖剣を抜く事を躊躇っていました」
「う、うん?」
魔王とかいたんか。で、魔王を討伐した勇者さんは、これ以上大きな力を振るって、人間を害する事をよしとはしなかった……それで?
「だから、私は言ったんです。――じゃあ、タワシはどうでしょうと」
「なんで?!!」
聖剣とタワシ。一文字も被ってないし、多分生まれも素材も役割も世界観も違う。
「ああ、何でも良かったんですけど、偶々手元にあったんで」
「偶々タワシが手元にある状況ってどんなですか!?」
「ただの公衆浴場掃除ですよ。私と勇者さん、数日だけ神殿にお世話になっていたので」
二人して風呂掃除しとったんかい!!
「他に風呂桶とかタオルとかあったんですが、流石に武器にはならないかな……と」
「むしろなんでそこで、お姉さんはタワシが武器になると思ったん!?」
「え、あれで殴られると痛くないですか?」
殴った事あるんかい!!
「それに勇者さんも、『石鹸や風呂桶よりは……』と賛同してくれましたし」
しかもなんで、風呂場内にしか武器の選択肢がなかったんやこの人達!?
「そういう訳で、勇者さんはタワシを武器に、不殺の誓いを立てたんです」
「そんな誓い、立てられた方かて困るわ!!」
久しぶりに、ジャストミートなタイミングでのツッコミを入れた気分や。
なんやこの二人。ボケか。ツッコミ待ちでボケ倒してたボケ二人だったんか!?
「大丈夫です。誓いは私が、しっかりと受付ましたから」
「お姉さん、とりあえずその受付は訂正変更しよう? 武器がタワシはナイやろタワシは? せめてスコップとか包丁とか湯たんぽとかにしとき?」
「湯たんぽ?」
「金属製の湯たんぽに、お湯入れたら鈍器レベルやんか」
「あはははっ、それは思いつきませんでした。やったことあるんです?」
「お母さんが、喧嘩したときお父さんに……って、そんなんどうでもええねん!!」
「あ、しー、静かに。……来ましたよ」
「えっ、あ、う……」
そんな私も、敵が来ればやっぱり怖くて、お姉さんと隠れるしかない。
「――おい貴様っ!! ここを若い娘が逃げて来たならば正直に言え!! 白い肌で胸が大きい娘だ!!」
なんとあの変態デブオヤジ誘拐犯が、馬に乗った鎧甲冑姿の男共を引き連れて来た。
――胸が大きいて、別に本当やけど特徴にすんなや!! クソエロオヤジがっ!!
「知っている。だが貴様に彼女を引き渡す事はない」
「なっ!! なんだと!! この下賤者!! 余を誰と心得るか?!!」
「ただの誘拐犯だろう。嫌がる未成年の少女を攫うなど、例えどんな身分だろうと、下衆野郎と呼ぶに相応しい所行だ」
勇者さんは格好良くそう答えると――格好悪くタワシを掲げて宣誓する。
「大人しく罪の報いを受けるがいい。――このタワシと共に、俺はお前達を叩きのめすだろう!!」
「こ――この!! ふざけた愚か者め!!」
……あの変態デブオヤジ誘拐犯と意見が合うのはイヤやけど、私もちょっとそう思う。
「この愚か者を捕らえよ!! 拷問にかけて、娘の居場所を吐かせてやるっ!!」
そしてふざけた愚か者に愚弄されたと怒り狂った変態デブオヤジ誘拐犯の命令によって、誘拐犯チームVS勇者さん(相棒タワシ)の戦いは始まったのだった。
――その数分後。
「ひっ――ひぃいい!!」
「話にならんな。……こいつらはこの国の騎士か? もっと鍛錬させろ」
「ひぃいいい!! ばばばバケモノめぇええええ!!」
勇者さん(相棒タワシ)の圧勝で、戦闘はあっさりと終了した。
その戦いを説明するなら……タワシTUEEEEE!! の一言に尽きる。
勇者さんが目にも止まらぬ速さで振るったタワシは、剣を叩き折り鎧甲冑を粉砕し、更には地面をクレーターのように抉り吹き飛ばして、誘拐犯共を完膚無きまでに敗北させたのだった。――くそ、タワシのくせにっ。
「ばばバケモノっ!! バケモノぉおおお!!」
「あの娘の事はあきらめろ。……もし追っ手など差し向けたならば、貴様を再起不能にするため俺が戻ってくるぞ」
「ひぃいいいい!!」
地面に這いつくばったハゲデブオヤジ誘拐犯は(あの金髪縦ロール、カツラやったんかっ!)ガクガク震えながら勇者さんを見上げ、悲鳴混じりの声で叫ぶ。
「きさ――貴様まさか当代の!! 深緑の勇者か!!」
どうやら有名人だったらしい勇者さんは、だがつまらなそうな顔でハゲデブオヤジ誘拐犯を見下ろし、冷たい声で返した。
「そのような者は知らん。……俺はただの、タワシの護衛だ」
……もうちょっと普通の偽名(?)は考えつかなかったんだろうか。
「た……タワシの……護衛!! ひっ!! ひぃいいいい!! タワシのごえぇええええええ!!」
真面目に呼ぶな。それでいいのかハゲデブオヤジ誘拐犯。
「あ……という事は、これからは私達も、タワシの護衛さんと呼んだ方がいいのかな……」
お姉さんそこ、真面目に考えるとこなん?
「……待たせたな、それじゃあ行こうか二人とも」
「あ、はい。……無事でよかったです、勇者……いえ、タワシの護衛さん……」
「……ああ」
――しかもなんで、それで二人ちょっといい雰囲気になってるん?!!
「……やっぱり勇者さんと呼びたいですね。タワシの護衛さんだと、タワシそのものが護衛しているみたいですし」
「勇者を勝手に名乗る者は多いし、別に構わない。……どんな呼び名だろうと、俺が君達を守る事には変わりないからな」
「……タワシの勇者さん……」
「混ざっとる!! いい雰囲気のまま混ざっとるよお姉さん!!」
「あら、いけない」
「まぁ、呼び名なんてゆっくり考えれば良いんじゃないか? ……これからまだしばらくは、一緒にいる事になるんだし。……なぁ、娘さん」
「……そうですね、勇者さん。……あ、やっぱり勇者さん呼びが、一番しっくりくるみたいです」
「ははは。俺も君の事は、娘さん呼びが一番しっくり来るようだ」
「ふふふ、じゃあ同じですね私達」
「そうだな……ははは」
……なんやろう、このアウェー感。……混じりたくはないけど、なんか寂しい。
「……い、いいもん。私彼氏いるし……あの野郎、浮気でもしとったらマジぶっころやからなっ」
「あ、お嬢さん彼氏いるんだっ? どんな子ですっ? どんな子ですっ?」
「えっ?」
一人言のつもりが、楽しそうに食い付かれてちょっと驚く。このお姉さん、落ち着いてるようで、案外話好き?
「ええと……別に、普通です。……背は高いけど」
「かれし? それは恋人の事か? それとも将来を誓い合った、許婚のようなものか?」
「将来?!! ナイナイ!! 勇者さんありえないですよそんなん!! 私達まだ高校生やし!!
「ふむ……よく判らないが、君達の世界は結婚が遅いのか? この世界では、君や娘さんくらいは丁度結婚適齢期だぞ」
「いや、結婚早いのもおるけど。でも私はないなぁ……あんなヤツと結婚とかっ」
「あれ、好きなんでしょ?」
「……好きやけど……頼りにならんし。……助けにも……こんかったし……」
「……」
理不尽で無茶な悲しみを思い出して、私が無茶な事をブツブツ呟いていると……ぽん、と、頭にお姉さんの手が乗せられる。
「……その子も心配してるよ」
「……うん」
……そうや。……あいつはヒーローじゃないけど、優しいヤツやった。
「……きっと……そうや」
……心配しないはずない。
「だから、早く帰ろう?」
「うん。……帰り……ましょ」
ようやく実感した安堵と、また会える大切な人を思い出して
「っ…………うぅっ……帰る……ぅ……っ」
――私は込み上げてくるものに耐えきれずに、涙をこぼした。
「もう大丈夫ですよ。……早く一緒に帰りましょう」
……そんな私を抱きしめ、お姉さんは背をさすってくれた。
こうして、私はお姉さんと勇者さんと一緒に、家に帰るまでの旅をする事になった。
「――ここを越えるん?!!」
「この氷柱の結界群を越えた先の曲がり角を、右ですね」
「曲がり角ハードル高過ぎるわ!! 遠回り!! 迂回できんの?!」
「迂回だと、若い女を生贄として狙う黒魔術狂信者の群れが待つ谷か、通りかかる若い女を繁殖用に捕らえようとする、オーガ達の領域である森を通り抜けないといけないんですけど……」
「どっちもいややーっ!!」
「安心しろ、どちらに行こうと、俺がこのタワシで守ってみせる!」
「勇者さんーっ!! こういう時は本気装備にしてぇなーっ!!」
「ええ、そうですよね。――勇者さん、タワシのパワーアップ版、金ダワシです!!」
「おおっ」
「おおっ!! やないからーっ!!」
親切で頼れる――けど一定周期でツッコミ入れずにはいられない二人との旅は、中々大変で、でもちょっと楽しくて。
「――へぇ、あの漫画原作の映画、彼氏と見たんですか」
「そうそう。あのアホ、普通初デートでグロ系とか行きますぅ?」
「あはは、一緒に行く子の趣味にもよりますかね?」
「……お姉さんは、勇者さんとデートとか、する?」
「えっ……いやいやそんな……」
「……ほんまに? ほんまに~?」
「……一緒に星くらいは見ましたけど」
「へぇえ~、一緒に星ねぇ~? 歌の歌詞みたいでええやんそれぇ~♪」
「そ、そんなんじゃないですよっ」
気が付けば恐怖と不安で荒んでいた私は、誘拐される前の騒がしいお調子者に戻っていた。
「なぁなぁ勇者さんっ」
「ん? なんだい?」
「勇者さんってお姉さんの事――」
「ちぇすとぉおおおおおおおっ!!」
「おう?! ……ど、どうした娘さん? 君の下で、女子高生君が下で潰れてるぞ」
「な、なんでもないんです。……なんでも」
「……娘さん、どうかしたなら、話して欲しいんだがな」
「……勇者さん……」
「……」
「……」
「……おねえさん……悪かったから上からどいて……マジ私の自慢の胸が潰れるぅう……っ」
「自慢ですかっ」
そして家路に近づく毎に、少しずつ切ない雰囲気になる勇者さんとお姉さんを、こっそりと見守っていた。
「……ねぇ、お姉さん」
「うん、なんですか?」
「……私は会いたい人がいるけど、お姉さんは離れたくない人がいるんやね」
「……」
「……どうにかする?」
「……しませんよ。……一緒に帰ろうって、約束したじゃないですか?」
「……でも」
お姉さんは帰ると決めていて、勇者さんはそんなお姉さんを帰すと決めていて。
そんな二人だから何も言う事はなかったけど、ちょっと空気を読めば、二人が段々離れがたくなっている事くらい、簡単に判っちゃって。
「それでええの?」
「いいんですよ。……比喩でもなんでもなく、世界が違うんですもん」
「……まぁ、そうやな。勇者さんかっこええし、強いし甲斐性あるし。世界が違う面倒臭い女やない、もっと楽な彼女なんていくらでもできるやろ」
「……そうですね」
「……それで、ほんまにええの?」
「……いいんですよ」
「……」
「……」
でもだからって、くっつけー、と無責任に言えるようなわけでもなく。
私はただ、ちょっとだけ切ない空気を感じながら、それでもやっぱり楽しく、二人と一緒に違う世界を横切って元の世界への帰還を目指した。
「……勇者さん」
「うん、なんだ娘さん」
「……」
「……そしてなんだ、女子高生さん。何故見る?」
「えぇ~? なんとなく」
「なんだそれは」
「……ふふ」
「笑う所なのか? 娘さん」
それから、色々な事が、本当に色々あってようやく、私は無事家に帰る事ができた。
「――お前!! お前ほんま……どこ……って……このアホぉっ!!」
「……ごめん。……泣かんといて……っ」
両親にも友達にも――あいつにも大泣きされて、もらい泣きして、私はようやく日常に戻ってこれた。
「……よかった」
「……それじゃあ、行こうか娘さん」
「そうですね、勇者さん。……最後まで、よろしくお願いします」
「……ああ」
……そして、私と別れたその後。
お姉さんと勇者さんの方は、日常に戻るまで、まだまだ色んな事があったようだけど。
「最後まで……一緒にいてください」
「ああ。君の住む世界も危険だからな、ちゃんと側にいる」
「……ふふ」
「……笑うところなのか?」
……それはまた、別の話なんだろう。
御読了ありがとうございました。