パイロット
「あ~いたいた。ルーカス、おーい!」
「ん、何かあった?」
「課長からの呼び出し。また何か騒ぎを起こしたんでしょ」
「………身に覚えが無い」
「とにかく呼び出しだから。ちゃんとつたえたからね、こってり絞られてきな」
「はぁ」
この男、ルーカス。別にこれといった特長がないのが特徴のただの会社員である。……と本人はおもっているつもりだが、周りはそうは思っていない。
「ちわー。課長の呼び出しくらったルーカスきました」
「おお、きたか。まあ座れや」
「あの、俺なんか悪いことしましたか?」
「…………」
「…もしかして、地下倉庫覗きにいったのバレました?いや勝手に入ったら悪いかな~とか考えたけど、最近地下が騒がしいでしょ。他のメンバーも気になるって言ってて、鍵も扉も空いてたから…でも結局暗くて何があるのかわかんなくて帰りましたけど」
「覗いたのか、知らなかったな。自首してくれるとは」
「へっ!?」
「まあいい、今回は不問に付すとしよう。それはおいといて、ルーカス君、君は人型巨大ロボットに興味はあるかね」
「あります!いやー実はこの会社はいったのもロボットを扱えるってきいてたもんですから」
「そうかそうか、ではちょっとついてきてくれ」
地下。そこは誰かがストレス発散に物にあたったのではないかと感じさせるほどの乱雑に物がちらかっていた。そこに不自然に動く鏡台があった。……ちがった、禿げたオジサンがいた。
「おい、じいさん生きてるか?」
「勝手に殺すな!お、こいつが例の子か?」
「そうだ。ルーカスってんだ。ルーカス、こちらは特別技術顧問のじいさんだ」
「森じゃ。よろしくのう」
「ルーカスと言います。森、ですか…自然って変移しますもんね」
「殴ってもよろしいかな?」
「まあまあ、その辺にしとけよ二人とも。じゃあルーカス、その椅子にすわってくれ」
「はあ」
「あとはリラックスしてればいいから。じいさんそっちの準備は?」
「できておる、はじめるぞい」
「始めるって、なにを…」
突然後ろを殴られたような感覚。
だんだんと意識が遠退いていった。
………
……
…
ルーカスが眠ったあと、地下には二人の話し声しか響かない。
「記憶改竄器、こんなもん表立ってはつかえないからな」
「わかっておるわい、それに記憶をいじくるというより催眠学習としてつかうだけじゃし」
「しかしなあ、パイロットの技術磨きにこんな危ないやつを使ったなんていえないじゃないか」
「仕方ないじゃろ、ピーキーな機体、あれをうごかすパイロット育成にはちと時間がない」
「しょうがない、か……」
二人の話し声をロボットは静かにきいていた。ただ、動けるようになるその日を待って……