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2014年/短編まとめ

自称天才論

作者: 文崎 美生

成績優秀、文武両道、品行方正、才色兼備。


沢山の期待と沢山の思いを背負って生きてきたんだから、その期待に思いに全て答えなくてはいけない。


背負ってきた物は捨てられるわけもなく、一生背負い続けなくてはいけない。


もっともっと、更なる高みを目指して。


進化を続けろ。


立ち止まることは許されない。


今日も私は綺麗に笑う。


伸ばされた手は全て掴んで引き上げなくてはいけない。


助けて助けて助けて、そして自分の身を犠牲にして擦り減っていく。


沢山の命を背負いなさい。


そっと自分の剣を握る。


私の手に馴染むそれは何時だって私を仲間を誰かを守って来た。


そして何時だって誰かを何かを壊して殺して来た。


守れ守れ守れ。


最早心なんてなくなりそうで機械的に出された命令に従うの。


いつも通りに剣を構えて、いつも通りに全てを薙ぎ払う。


後ろに控えた人を守るために。


この先にいる人を助けるために。


自分の全てを犠牲にしても。


胸の奥から溢れてくる黒はゆっくりと、でもしっかりと私の中を満たして行く。


黒くて重たい水のようなそれが何かはわからない。


ただ体に染み込んでいく。


その度に肺が焼かれる様な気がして呼吸が苦しくなる。


ごぽ、と吐き出される恐怖や不安。


大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫。


私はまだ大丈夫。


英雄と呼ばれる少女は今何を思う。


過去の英雄たちはどう思って感じて、生きて戦って死んでいった。


私は天才。


誰もが認める天才で英雄で、誰かを守り救う為に存在するのだ。


それが出来ないなら死あるのみ。


胃がひっくり返って出てくる物達を吐き出して、流していく無に。


「げほっ……うえぇ」


情けない情けない情けない。


皆期待してる皆待ってる皆皆皆皆。


大丈夫、私は強い、私は天才。


今回も私は誰一人失わずに戻って来る。


私は弱くない私は死なない誰も死なない。


肩に乗せられた重しなんて感じない。


かけられた期待なんてプレッシャーなんて感じない。


今日も私は完璧に。


流れている水を止めて鏡を見つめる。


情けない顔をした自分の頬を両手で叩いた。


「私は、大丈夫。私は、強い。私は、完璧。私は、天才」


暗示のように何度も唱え続けた言葉。


身を翻す。


此処から出たらまた、私は完璧に戻っている。


さぁ、今日も戦おう。


この身が朽ちるその日まで。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり勇者とか英雄になんてなるもんじゃないですね(笑) 誰かを救えても、救えない人達はいますから。 例えば、勇者本人とか....
2014/08/26 19:32 退会済み
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