自称天才論
成績優秀、文武両道、品行方正、才色兼備。
沢山の期待と沢山の思いを背負って生きてきたんだから、その期待に思いに全て答えなくてはいけない。
背負ってきた物は捨てられるわけもなく、一生背負い続けなくてはいけない。
もっともっと、更なる高みを目指して。
進化を続けろ。
立ち止まることは許されない。
今日も私は綺麗に笑う。
伸ばされた手は全て掴んで引き上げなくてはいけない。
助けて助けて助けて、そして自分の身を犠牲にして擦り減っていく。
沢山の命を背負いなさい。
そっと自分の剣を握る。
私の手に馴染むそれは何時だって私を仲間を誰かを守って来た。
そして何時だって誰かを何かを壊して殺して来た。
守れ守れ守れ。
最早心なんてなくなりそうで機械的に出された命令に従うの。
いつも通りに剣を構えて、いつも通りに全てを薙ぎ払う。
後ろに控えた人を守るために。
この先にいる人を助けるために。
自分の全てを犠牲にしても。
胸の奥から溢れてくる黒はゆっくりと、でもしっかりと私の中を満たして行く。
黒くて重たい水のようなそれが何かはわからない。
ただ体に染み込んでいく。
その度に肺が焼かれる様な気がして呼吸が苦しくなる。
ごぽ、と吐き出される恐怖や不安。
大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫。
私はまだ大丈夫。
英雄と呼ばれる少女は今何を思う。
過去の英雄たちはどう思って感じて、生きて戦って死んでいった。
私は天才。
誰もが認める天才で英雄で、誰かを守り救う為に存在するのだ。
それが出来ないなら死あるのみ。
胃がひっくり返って出てくる物達を吐き出して、流していく無に。
「げほっ……うえぇ」
情けない情けない情けない。
皆期待してる皆待ってる皆皆皆皆。
大丈夫、私は強い、私は天才。
今回も私は誰一人失わずに戻って来る。
私は弱くない私は死なない誰も死なない。
肩に乗せられた重しなんて感じない。
かけられた期待なんてプレッシャーなんて感じない。
今日も私は完璧に。
流れている水を止めて鏡を見つめる。
情けない顔をした自分の頬を両手で叩いた。
「私は、大丈夫。私は、強い。私は、完璧。私は、天才」
暗示のように何度も唱え続けた言葉。
身を翻す。
此処から出たらまた、私は完璧に戻っている。
さぁ、今日も戦おう。
この身が朽ちるその日まで。