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白いチューリップ

作者: 佐伯
掲載日:2012/07/24

『俺はお前が……

空を見上げた。上空から、地上を浄化するように水が降ってくる。サァと言う静音。

少しその様子を眺めたのち、俺は正面に向き直るとビニールのフードを引っ張り、走り出した。靴がぐちゃぐちゃと音をたてる。

よく整備された道に出来た水溜り、踏み込むとバシャリと跳ねた。





ぐしょぬれになりながら、着いた目的地、とあるマンション。

玄関傍のインターホン、を押す。


寂れた電子音が聞こえた。


ガチャりと金属が擦れる音、ドアが開く。


「仁……」ヤツれた女。女は、ぱらりと垂れた前髪をそっと耳にかける。

「よう」俺は軽く手をあげ、中を指差す。

「上がっていいか?」


「……」


女は顔を覆う。そして肩を震わせた。「なんで普通に振る舞えるの?どうして、ねえ、何で……」



俺は無視して、上に羽織った雨具を畳む。そして向き直る。「中入っていいか?」


「……」


「勝手にすれば」ドアが閉まる。


俺はドアを開け玄関で靴を脱ぎ、素足となる。ひたひたと木製の床を歩くと、足跡が付いた。



居間。ベージュの皮のソファーに膝を抱え丸くなっている女、肩の震え。鼻水を啜る音。

「じ、仁に、今の私の気持ちなんかわかんない……」


俺はソファー脇に腰掛ける。

「そうだな」一言、溜息と共に吐き出す。


うえーん。子供のような泣き声を女が上げる。「もう、なにしに来たの!帰って!帰ってよぉ!」


「……」


俺は会話に間をおき、すっと呟く。

「佐伯……佐伯武」


ビクリ。

女の肩がびくりと大げさに動き。さらに、ガタガタと震えた。



言葉に抑圧はない。 そして俺の感情にも。

「今日、殺したよ」


「え……?」声を上げ、女は立ち上がった。「武……を? え……」



「それだけ伝えたかった……」


「なんで、そんなの仁、捕まっちゃう……、ダメだよ」

「もう終わった」

「ダメだよ。なんで?」

俺は立ち上がる。


「仁……」

「どこに……どこに行くの」背後から、俺のシャツが掴まれる。


俺は振り返り、そっと唇を合わせる。

女は大きく目を見開き、そしてゆっくりと脱力をし。甘く「ん…」と声を上げた。自然と唇が離れ、

そして見つめ合うと、ゆっくりソファーにお互いの体を預けた。

「仁……」




濡れた瞳。

「さよなら」

俺だけ立ち上がる。

「あっ」

【俺が殺した佐伯武は単なるチンピラではない。必ず報復があるだろう。

身勝手にキスをしてしまったが、俺はこれから自らヤクザな報復を受けに行く、それで終わり】

俺は、玄関に向かう。



「大人になってから、初めてだね、キスしたの、ちょっと嬉しかった……かな?」ふふふ、と笑う。「こんなに汚された私だけれど、照れたわ」震えた声。

カチっと言うライターの電子音。不器用に煙を吐き出す息の音。

「さよなら、仁」背中に投げかけられる言葉。

バタン、とドアが閉まると、子供のような大きな泣き声。うわぁと言う。

感情が高まると、大人も子供も変わりはないね。


俺は、少し振り返り、「今日までありがとう」と呟いた。

言葉は、鉄製のドアに阻まれる。



サァと言う音は続いている。今日はやまない。

「はぁ」

深く潜る前の深呼吸だ。


死に向かい1歩、外に踏み出した、雨具は使わない。濡れたい気分だから。

好きだった、ずっと好きだった』



【両瞼は内出血をし、腫れ上がっている。目を見開いても半分位しか見えない。後ろ手に手錠をされ、埃の積もったコンクリートの床に転がる俺は、数ヶ所の打撲傷の痛みと。銀紙を歯ですり潰した様な、ギンギンとした痛みを左頬に感じていた。

こういうリンチって、何も知らない未成年のガキにやらせる事が多い。なぜ?それは『わかってないから』

殺したって『箔が付く』位に考える。

バーカ。

雨水で流れちゃうぐらいの薄っぺらい箔で、ぺらんぺらんの、人生に何の彩りになる。と、俺は思うね。

お前らはパパとママから何を学んだ?


不良の赤ン坊だったのか?クック。】

【俺は得意気に鈍器を構える、ガキ3人に囁く。「なあ……」】

【視界は悪いが生き残る為に、目線を上げた】


おわり。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。「秋風月に花束を」に参加しているsyouと申します。 執筆お疲れ様でした。 「白いチューリップ」拝読しました。 彼女の最後の言葉が印象的でした。止めてもいけないし、かといって行…
[一言] この文字数でこの作品。描写に関して文字数としてはかなり少ないですが、十分伝わってきました。削り方、とても上手いと思います。 部屋の詳細な描写や服装や人物の容姿などあったらかえって無粋とすら感…
[一言] はじめまして、「秋風月に花束を」参加者の遠野です。 ハードボイルドな雰囲気と全体的なテンポの良さに好感を持ちました。 多くを語らない男、カッコイイです。 敢えて情報を統制して想像を掻き立…
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