第二章・種の絶滅(1)
喧騒とした慌しい日常よりほんの少しだけ現実を忘れ、自由に想像を膨らませ空想の部屋へお越し下さい。お付き合いいただけるひとときの間、あなた様はどのような夢を見ていただけますでしょうか。
漆黒の闇の中。それは見上げるほどの鬱蒼とした高い樹木が生い茂る森と一体にその存在を消すかのようにひっそりと姿を佇まさせていた。それの周りには人の背丈ほどある雑草が敷き詰めて長い蔦が伸び、その姿を覆い尽くしている。長年の年月が偶然そうさせたのか、それとも故意にしたのか。まるで人目を避け見つかってはいけないかのように・・・。だが大きな満月が雲からゆっくり顔を出す夏の蒸し暑い夜、四人の若者たちによってその沈黙は破られた。
「やっと見つけたよ」
「本当に在ったのね」
「なんか不気味だよな」
「やだ・・帰ろうかしら」
彼らの前には廃墟と化した大きな建物が聳え立っていた。彼らの視線はその建物に目を逸らすことなく集中していた。
「見事なもんだな」
「怖いわ・・」
「私たちが見つけたのよね」
「じゃ、入ってみようぜ」
物音のない静寂の空気が包みこんでいた。ゆっくりと生暖かい空気が吹き出したころ彼らの持った懐中電灯の光が揺れ動きだした。四人は自分の背丈まである雑草を掻き分け廃墟の建物に向かって歩き出した。
「やっぱりやめましょ。私怖いわ」
そう言って望恵は立ち止まった。
「なに言ってんだ、ここまできて。ようやく幻の心霊スポットを見つけたんだぜ」
悟がじれったそうに言った。
「入らず帰るなんて勿体ないぜ」
孝広がけし掛けた。
「もう、臆病なんだから」
良子があざ笑った。
蒸し暑い夏の夜。誰も知らない森のなか四人の声だけが響いていた。彼らの前にはまるで彼らを待ち構えているかのようにそれはじっと静かに建っていた。
四人ともじめっとした汗を体中に掻いていた。それは熱帯夜の所為かそれとも今から向かう幽霊屋敷に興奮しているためか、いずれにせよ彼らの胸は高鳴っていた。
一歩一歩と四人が持つ懐中電灯の光が揺れその廃墟に近づいていった。彼らを待ち受ける恐怖が口を開けて待っているとは知らずに・・・。・・・つづく