第一章・侵略組曲(7)
極度ののどの渇きをおぼえ、ゆっくりとベッドから立ち上がった。汗を含んだパジャマがべっとりと体に付着する。半分脱水症状を起こしているのか、ふらふらと廊下に出た。冷水機のある方向へと意識もうろうになりながら歩いていく。たどり着くと同時にスイッチを押し冷水をがぶ飲みした。冷たい水がのどを潤す。のどの渇きが満たされるとそばにあった長いすに腰を掻け放心状態になった。そして物思いに耽った。
有沢という名のもう一人の自分。あの新幹線での出来事。物に触れる感触も伝わっているし、目に見たものも鮮明に覚えている。これが夢というものの成せる業なのだろうか。
考えることは夢のことばかりである。
あの少年は誰なんだ・・・。彼を知っていた・・・。山崎との深い繋がり。そして命を狙うウェイトレスに他の乗客たち。関わってくる夢のなかの登場人物は有沢という名の自分にどういう影響を与えているんだ。
答えが出てこない。だんだんと頭が痛くなってきた。俯き両手の中指でこめかみを押さえる。
それにこの夢は日を増すごとに少しずつ変化している。同じ繰り返しじゃない。しかしその先が見えない。もう少しのところで夢から覚める。あの車両の次には何があるんだ。
まぶたを閉じこめかみを撫ぜた。
この夢を見だしたのは病院に入院してからだ。ここに来てから何日経つだろう。あれから・・・あれから・・・。まてよこの病院に来る前は何をしていたんだ・・・。そうだ会社に勤めていたんだ。なんの会社だ・・・。そこで何をしていた・・・。過労で倒れた・・・。それはここへ来てから聞いた話だ。誰に聞いた。遠藤広子・・・。
夢のことから現実のはなしに切り替わる。頭痛がひどくなる。両手で頭を押さえた。
体を休め回復するためにこのリハビリの棟にいる。病に冒されたわけではない。なのに何故いつも部屋には薬の匂いがするんだ。そして今日は昼にもならない時間にベンチの上で寝込んでしまったはずだ。あれから何時間経っているんだ。
両手で髪の毛を握る。夢のなかの自分も現実の自分も存在が分からなくなってきた。ましてや何故ここにいるのかも思い出そうとしても思い出せない。曖昧な記憶だけが脳裏をかすめる。
誰が部屋のベッドまで運んだのだろうか?
遠藤広子の顔が頭に浮かぶ。少し頭痛も治まり首を後ろにもたげ天井を見上げた。
たぶんそうだろう・・・。ひろちゃんか・・・。器量よしのえくぼのかわいい看護婦さん。まてよ・・・、病院関係者は彼女しか知らないし、他に会ってもいない。なぜだ・・・。専属の看護婦とはいっていたがそれにしてはおかしい。医者もひとりは顔を見せてもいいはずだ。分からない・・・、頭のなかがもやもやする。明日相談してみることにしよう・・・。
まぶたを閉じ体の力を抜く。そしてそのまま深い眠りについていった。それからどれだけの時間が過ぎただろう。汗を掻いたまま寝た所為か、ぞくっとした寒気を感じ身震いして目が覚めた。するとそこには大きな黒い人影が目の前に立っていた。・・・つづく




