第八章・悪夢の復活(8)
「有沢!有沢!」
遠くで自分の名前を呼ぶ聞いた声がする。
「有沢!起きろ有沢!」
有沢がゆっくり目を覚ますと、そこには山崎がいた。
「お前に言っておきたい大事な話がある」
山崎が真剣な顔で語りかけてきた。起き上がり周りを見るとそこは最初にいた狭い小さな部屋だった。
「有沢、大丈夫か・・?」
山崎の問いかけに振り返る。砂ぼこりのついた薄汚れた背広姿の山崎は心配そうな顔をしていた。
「あぁ、大丈夫です・・」
目を覚まそうと眉間を撫でた。
「俺はもう駄目かもしれない・・」
山崎は有沢から目を逸らした。
「どうしたんです、司令官」
有沢は訳が分からなかった。
「お前に助けられたが俺は長い間、敵に捕まっていた。覚えてはいないが尋問されているに決まっている。奴らはあらゆる手段で我々の情報を俺から吐き出させただろう。たぶん・・、俺は口を割った・・。皆に会わせる顔が無い・・」
山崎は力なく俯いた。
「それは確かとは言えません。アジトに戻ってから対策を練りましょう」
有沢は山崎を元気付けた。
「その帰る場所が無かったらどうする・・。俺が奴らに既に喋ってしまっていたら・・。もう戻る頃にはせん滅されているかもしれない・・」
山崎は俯き屈み込んだ。有沢は今の山崎の情け無い姿を虚ろな目で見た。
「司令官らしく無いですよ。慎重に前向きにそして楽観的にが司令官のモットーでしょ。もし奴らが我々のアジトを先に知って攻撃しても、同志はそう簡単にやられませんよ」
有沢は虚ろな目で山崎を頼りなく見ていた。と、急に山崎が顔を上げた。
「俺の代わりにお前が司令官になれ!奴らの基地で薬漬けになりふらふらになっていたが、奴らの情報は手に入れた!俺のGPSと共にマイクロチップに納めてある」
山崎は恐れを抱くような真剣な眼差しで有沢に訴えかけてきた。
「何を言っているんですか・・」
有沢は虚ろな目を見開いた。
「今から俺のGPSをお前に埋め込む。少し痛いが我慢してくれ・・」
山崎はそう言った途端、有沢の脇腹に一撃をいれた。
「ぐっ・・」
有沢は腹を抱え伏せた。
「悪いがこうするしかないんだ。我々の同志と俺の妹を頼んだぞ」
山崎は気絶している有沢の顔を眺めた。
有沢は目を見開いた。そこは足を縮めるほど狭い空間だった。
「脱出ポットの中・・」
有沢一人を乗せたカプセル型の脱出ポットは勢いよく浮上していた。防圧硝子の向こうはまだ暗い海の底だ。
「夢の中で新幹線の窓から見た暗闇と同じだ・・」
有沢は頬を撫ぜ、奥歯の親知らずを探り記憶を遡った。
「そうか思い出したぞ・・。俺に自分の役を継がし司令官は自殺した・・。俺に重要な任務を託し自ら命を絶った・・。そんな司令官を俺はなんて不謹慎な心で見ていたのだろう・・」
有沢は自分を嘆いた。
「それに艦長と潜水艦の中の同志達・・。みんな俺の為に命を張ってくれた・・」
有沢の目から涙が溢れ出した。長い間、顔を押さえて泣きじゃくった。そして一滴も残さず涙を流し終えると顔を上げた。
「俺が司令官になってやる。死んでいった司令官や同志達の弔い合戦だ!」
有沢は固く誓った。防圧硝子の向こうがすこし明るくなってきた。もうすぐ東京湾だ。
「妹との仲はお見通しだよ。何しろ俺は司令官でお前の恋人の兄貴だぞ・・」
有沢の目の前に山崎の顔が映った。遠藤広子・・、いや山崎鮎子を思い出す。その時、大きな振動が起こり体を揺れ動かした。ようやく海面に出たのだ。自動的にアンテナが顔を出し救難信号を送る。
有沢は防圧硝子を開けた。そこにはいくつもの星が輝いている満天の夜空だった。潮風が気持ちよく駆け抜ける。有沢はその気持ちよさについうとうとと転寝をしてしまった。
目が覚めるとそこは殺風景で真っ白な、病院の独特の薬の匂いが立ち込める部屋だった。有沢はベッドに寝かされベルトで体を拘束されている。
“手術台・・!”
そう思ったが、口もまともに動かない。体中が麻痺している。
有沢は目だけちょろちょろ動かしている。そこに、幼顔の女が顔を出し妖しく微笑んだ。
「ほしいものー、みぃーつけたっー」
有沢は目を見開いた。前に薄ぼんやり人影が映る。
「おかえりなさい」
焦点が合った時、そこには愛しき女性、山崎鮎子がいた。
山崎鮎子は優しく微笑みかけ、有沢の頭を撫ぜた。
「ただいま。ようやく全部解ったよ」・・・「New Age Beginning」おわり
長い間、ご愛読ありがとうございました。
来春!いよいよファイナルバトル突入!
しばしの間、お待ちを!