第八章・悪夢の復活(7)
有沢は徐にポケットから牢屋の鍵を出し差し込んだ。静かに鍵を開ける。カチッという微かな音がした。そおっと音を立てず柵の扉を開ける。
部屋のドアの前まで行き、今度はドアのノブのロックをゆっくり開ける。また、そおっと音を立てずドアを開いた。
少しだけ覗き込む。廊下には誰もいない。足音を立てずに部屋から出た。
“もう一度、俺と司令官がいた部屋に行こう。真実を見つけなければ・・”
有沢は息を殺し、隠れながら小走りに進んだ。廊下の突き当たりに夢で出てきた新幹線の連結する自動ドアが見える。しかしよく見ると似ているが自動では無かった。
ノブを持ち横に開く。そこは潜水艦の心臓部、エンジンルームであった。どうやら方向を間違えたらしい。しかし有沢は気になり中へ入っていった。何か気配がする。エンジンが物凄い音を立てている所為だけではない。確かに人の気配だ。誰かいる・・。それも我々の同志ではない。
有沢は見つからないよう腰を屈め、物陰に隠れながら近づいていった。
そこには不振な行動を取る一人の若者がいた。
「何をしている!」
有沢はその若者に向かって大きな声をあげた。若者は驚いた様子で反射的に有沢を見た。
「エンジンのチェックです・・」
若者は目を大きく開け、怯えながら答えた。有沢は直ぐに嘘だと分かった。
「それで具合はどうだ!」
有沢は相手に合わせた。
「もう大丈夫です・・」
若者はおどおどしながら答えた。
「ところで君が持っている太いケーブルは何なんだ!」
有沢はその覚束ない行動を取る若者に強く言った。
その言葉を聴いた瞬間、若者の態度は豹変した。
「近寄るな!お前たち全員殺してやる!」
若者は目の色を変え、そう言った。
「何の真似だ。どうする気なんだ!」
有沢は一歩前に出た。
「それ以上近寄るな!俺は人間爆弾だ!皆、粉々にしてやる!」
若者は震えながら言った。
「そうなったら自分自身もどうなるか分かっているのか!」
有沢は一歩後に退いた。若者の額に一筋の汗が流れた。
「俺はこの任務が成功すれば一つ上に昂進するんだ!」
若者は噛み付くように言った。
「どういう意味だ」
有沢はその若者の挙動不審な言動に戸惑った。
「俺は政府と契約したんだよ!お前達をやっつけると格が上がると約束したんだ!それで自ら人間爆弾に志願したんだ!」
若者は尋常じゃない。
「騙されていると分って無いのか!奴らにとって君は捨て駒なんだよ!」
有沢は感情的になった。
“これは夢じゃない!身体で思った言葉が自由だ!”
そう思った瞬間、有沢は自分の置かれている状況を目の当たりにした。
「落ち着け!冷静になれ!」
有沢は自分にも言い聞かせ、その若者を落ち着かせるように冷静に言った。
「うるさい!妹が捕らわれているんだよ!」
若者は泣きながら言った。
「我々が助けてやる。だからその・・ぶっといケーブルを置きなさい・・」
有沢は腰を低くゆっくり言った。
「俺にとっては愛らしい妹なんだ・・。向こうは俺の事を忘れているかもしれないけれど、歳の割にはまだまだ幼い顔で、だけど声変わりはして見た目とは感じが違うがいい奴なんだ。それを奴らは実験台だとかいって妹から記憶を奪ったんだ!」
“夢の中に出てきたウェイトレスだ!”
有沢はその若者の言う妹の姿が夢とダブった。
「もうこうなったら、やけくそだ!どうにでもしてやる!!」
そう言って若者は両手に持った太いケーブルを自分の胸に押し当てた。
「後先考えず突っ走った行動をするんじゃない!」
有沢は大声で叫んだ。しかし既に遅く若者の体は真っ赤に燃え上がり炸裂寸前だった。そこへ有沢に突然、覆いかぶさる人物がいた。有沢はその人物に投げ飛ばされた。
・・と同時に若者の体は破裂し周りは爆発炎上した。けたたましくサイレンが鳴り、非常灯が点滅している。
「大丈夫ですか・・?隊長・・」
その覆いかぶさった人物は艦長だった。艦長の背中には爆発で飛び散った破片が突き刺さり血が大量に流れ出している。
「艦長!そっちこそ大丈夫か!!」
有沢は驚き艦長を支えた。
「早く逃げてください・・。脱出ポットが最前部にあります・・。このエンジンルームは艦の最後部に当たります・・。脱出ポットは通路を真直ぐ突き当たりです・・」
“自由席の一番最後の座席”
有沢は艦長の言葉に夢の中で出てきた新幹線の場面を思い浮かべた。
「それで早く脱出してください・・。この艦はもう終わりです・・」
艦長は苦しみながら一つ一つ言葉を言った。
「艦長も一緒に来るんだ!」
有沢は艦長を抱え立ち上がろうとした。
「私はこの艦と共にする使命があります・・。それを忘れる訳にはいけません・・。それに脱出ポットは一人乗りです・・。さぁ、早く・・」
艦長は有沢を突き放した。
「他の乗組員はどうするんだ!」
「他の者も私と同じ思いです・・。早く急いでください・・」
有沢が人の気配に見上げると隊員達が立ち並び有沢に向かって敬礼していた。
「我々の努力が無になります・・。隊長だけでも助かってください・・!」
艦長の最後の言葉に有沢は敬礼をして立ち上がり、涙を堪え隊員達にも同じく敬礼をして最前部に向かって走った。
溢れんばかりの涙を流し、全速力で走る有沢の後ろから大きな爆発音が聞こえ、炎はすぐ側まで迫っていた。・・・つづく
次回、いよいよ「New Age Beginning」遂に最終回!
悪夢の真相は解明できるのか!?