第八章・悪夢の復活(6)
荒々しい足音が部屋に向かって走ってくる。有沢はその物々しさに少し緊張した。大きな音を立てて入ってきたのは十七、八歳の若い青年だった。その青年は勢いよく牢屋の柵にしがみつき有沢に訴えかけた。
「たっ、・・大変です!艦長、・・艦長が殺されました!」
青年は余ほど慌てていた所為か、息も絶え絶えである。
「だっ、誰にだ!」
有沢は壁に背も垂れていたが、青年の側まで乗り出してきた。
「わっ、・・分かりません。他の隊員も全員殺されています・・。とにかく来てください・・」
青年は勢い勇んで逃げてきたのか、全身で大きく息をしている。
「君・・、何所かで会った事ないか・・?アジトの洞窟で・・?」
有沢は青年を落ち着かせながら、顔を眺めた。
「いいえ・・。有沢隊長とはお会いするのは初めてです・・。とにかく今・・、ここを開けますから、見に来てください・・」
青年は震えた手でポケットから鍵を取り出し錠前に差した。
有沢はその青年のたどたどしい緊迫感に焦っていたが、鍵を開けている行動を見て我に返った。
“まてよ・・。俺が閉じこねられている牢屋の鍵は、今しがた艦長から盗み取った筈だ・・”
そう思い有沢は、ズボンのポケットを探った。そこには確かに鍵があった。
“そうか・・、これはまた夢の中だ・・!忌々しい悪夢の世界だ・・!”
そう頭の中で感じ取ったが、どうも体が言う事を利かない。
「早く来てください!」
青年は牢屋を開け有沢の腕を掴んだ。有沢は思うように動かない体で意に操られるまま青年に引っ張られて行った。
“これは夢だ・・!悪い悪夢だ・・!分かっているがどうすることも出来ない”
有沢の頭の中でそう考えているが、体は勝手に動いていった。
二人が操縦室に着くと、そこは薄暗く非常灯が点滅し人影も無かった。有沢はゆっくりと中に入って行くと、非常灯の点滅の光が物陰に倒れている人物を繰り返し照らし出している。
「艦長!」
有沢は慌てて艦長にすがり付いた。しかし、もう息は無かった・・。
「どうして・・・誰がこんなことを・・・」
有沢は悔しい思いを感じた。
「俺が殺ったのさ・・」
有沢は咄嗟に声がする前を見た。
「しっ、司令官!」
有沢は目を疑った。死んでいた筈の山崎が目の前で立っている。
「有沢・・。お前も殺してやる・・」
山崎は薄気味悪い笑いで有沢を睨んでいる。
「どうしたんだ!司令官!」
有沢は思いっきりの大声で怒鳴った。
「俺は“裏政府”に寝返ったんだよ」
山崎は笑いながら答えた。
“いや、これは夢だ。現実では無い。しかし体が勝手に反応している。悪夢の世界に同化してしまっている”
有沢はまた頭の中でそう思った。
「あなたも、この潜水艦諸とも終わりよ」
有沢の後ろで女の声がする。振り向くと有沢をここへ連れてきた青年が喋っていた。その青年は微笑みながら顔のマスクを剥がした。
「小佐井蛍子・・!」
有沢は憎しみの声を出した。
「尊敬する司令官に撃たれて死になさい」
その小佐井の言葉に有沢は山崎を見た。山崎は銃を取り出し有沢に向けた。
「死ぬ前に一つだけ聞いてもいいかな・・」
有沢は声を張り上げた。
「この期に及んで往生際が悪いわね。まぁ、いいわ言ってみなさい。どうせ死ぬんだから」
小佐井は角の立つ声で言った。
「俺が知っている限り司令官は既に死んでいた。目の前にいる男は偽者だろう・・。そうなるとやはりお前が司令官を殺したのか・・」
有沢は小佐井の方へ向き直し聞いた。
「私がぁ・・、司令官をぉ・・。何故、敵である貴方達の一人を殺す必要があるのぉ・・。私の使命は貴方達全員をこの艦諸とも抹殺する事なのよ。一人ずつ殺していくなんて馬鹿げているわぁ」
小佐井の声がスローモーションで聞こえる。
「そうだよ有沢。一人ずつ殺すなんて馬鹿げている」
倒れて死んでいる艦長が目を開け有沢に答えた。有沢は訳が分からなくなり目の前が回り始めた。
「これで分かった筈よ。もういいでしょう。終わりにするわ・・」
小佐井がそう言った途端、有沢の周りが火に囲まれた。
「もういいでしょ。さようなら・・」
小佐井は両腕を広げ炎に包まれた。その瞬間、小佐井の体は炸裂してその爆風に有沢は吹き飛ばされた。
有沢は勢いよく目を開けた。嫌な汗で体じゅう湿っている。そこにはまた独特の病院の薬の匂いが立ち込めていた。・・・つづく




