第八章・悪夢の復活(3)
恐ろしくもなるほど暗く静かな深海の世界。そこに先を照らす一筋の光が差し込んだ。潜水艦・・。それはゆっくりと目的地に向け進行していた。
その潜水艦の狭く小さな鉄格子の中で有沢は監禁されていた。有沢は部屋の隅で体を抱え小さくなって今までの事を頭の中で整理していた。
「此処は何処だ。まだ夢の中なのか・・。いや、我々仲間の潜水艦の中だ!」
徐々に記憶を手繰り寄せていく。
「そうだ。我々は内偵を進めていた“裏政府”が運営する南の島の秘密基地に侵入したのだ・・」
全世界規模の大プロジェクト、理想郷を築くために。
君は新しい顔だね・・。
政府調査室、調査官の有沢高仁です。
・・・【それは、砂時計の砂が下に落ち時を刻むように静かに正確に動いていた。】
「当時、司令官と我々は別行動を取っていた。しかし連絡は密に保つ為に、絶えず敵を目を欺き伝書鳩を使っていた。だがそれは偽の捏造された情報だった。それを成しえた者は小佐井蛍子・・」
その代わり私も一緒に南の島に連れて行きなさい。
飛行機はねぇ・・。性に合わないのよ・・・。
・・・【それは、徐々にしかも正確に私たちを蝕んでいった。】
「我々も小佐井蛍子の個人情報を徹底的に調べ上げた。だが既にデータは改ざんされ、本当の小佐井蛍子は殺害されていた。敵のスパイを向かい入れてしまった訳だ・・」
見てなさい!私が陰謀を暴いてやる!!
裏に隠された真実を暴き出すのよ!!
だから人間はいつまで経っても愚かなのよ。
・・・【しかし私たちの感覚は麻痺されそれを見過ごしてしまった。】
「まんまと敵の罠に乗せられてしまった。総合デジタル衛星の打ち上げ自体が我々を罠にはめる計画だったとは気付かなかった。あの秘密基地である“宇宙センター”に勤める人達、政府関係者の人間を全て犠牲にしてまで我々レジスタンスを一掃した・・」
次の日曜が除幕式だ。
彼らは自分が実験台にされている事も知らず日常を送っているのです。
他に政府の人間もいるぞ。
・・・【それは、皆が注意していれば防げたかもしれない。】
「何人もの同志が死に、多くの犠牲者が出た。生き残った我々はその南の島から命からがら逃げ出した。それから長い月日が経った。その間に敵の"理想郷”、国際デジタル時代が幕を開けた・・」
国際デジタル時代の幕開けです。
打ち上げが延期されておりましたが有意義な時代がやってきました。
理想郷へようこそ!
・・・【それは、気付いた時にはもう遅い。もう取り返しのつかない事態まで来ている。】
「それでも我々は司令官の足取りを追った。そして司令官の体内に埋め込んだ人体GPSがようやく反応を標した・・」
もうこの基地は崩壊します。はやく此処から逃げましょう!
私たちは招待客の一人だ・・。
蛍子・・!蛍子はどこだ!
・・・【もう何をするにも遅すぎる。止めることなど出来はしない。】
「小佐井蛍子・・。あの女が憎い。司令官は最後まであの女の事を思い続けていた・・。そしてこの潜水艦で脱出した」
それよりはやく我々の船まで・・。
船・・・。
潜水艦です。
・・・【それは、着実に一寸の狂いも無く私たちとともに動いている】
「まさか、この俺が司令官を殺したのか・・。夢の中にいた俺は司令官に殺意を持っていた気がする。思い出せない・・。自分に自信が持てない・・。もし・・、俺が司令官を殺したとしても・・、真実を見つけ出そう・・」
このまま司令官として迎えるべきなのだろうか・・。
尊敬して憧れてもいた司令官の情けない姿に減滅した。
・・・【それは、誰しもが皆気づくことなく確実に広がっていた。】
「気になるのは第三の刺客・・。司令官が言った、あの新幹線のウェイトレスは何者だろう・・」
先っきの娘?
パスポートあったりして・・。週刊誌のなかに入っていたんだ。
乗り物好きの女が趣味なのね!
・・・【それは、私たちの知らない場所にありながらすぐ側で進化していった。】
「しかしここ連日、俺を悩ます夢は何を意味するのだろう・・。前にも一度、同じ場面に遭遇している記憶が残っている。いま此処にいる自分は現実なのか・・?」
・・・【支配はすでに始まっている・・・。】
有沢は頭を抱え小さくなった体勢のまま倒れこんだ。・・・つづく