第八章・悪夢の復活(1)
喧騒とした慌しい日常よりほんの少しだけ現実を忘れ、自由に想像を膨らませ空想の部屋へお越し下さい。お付き合いいただけるひとときの間、あなた様はどのような夢を見ていただけますでしょうか・・・。
どんよりとした鉛色の雲が空一面を覆いその重たい雰囲気のなか、大粒の雨が降り続いている。雲の中からは、ごろごろと恐怖感を募らせる音が鳴り響き、その都度けたたましい音と共に稲妻の閃光が走り空を切り裂ている。容赦なく降り続いている激しい雨の中、人数少ない自由席の一番最後の座席に山崎と有沢を乗せた新幹線は猛スピードで走っていた。
「リーダー、此処まで来れば一先ず安全です」
窓際に座る有沢は通路際に座る山崎に声をかけた。
「こんなところで・・・。名前で呼べばいい・・」
山崎は俯いたまま力の入らない声で答えた。
「山崎さん・・、この新幹線が東京に到着すれば仲間と合流できます。それからアジトに帰り策を練りましょう」
「・・・・」
有沢は山崎を元気付けるよう言ったが、当の山崎は疲れきった様子で頷くだけだった。
有沢は訳も無く山崎を悲観的な目で見つめた。
「山崎さん、煙草いかがですか?」
「・・・・」
有沢は煙草を勧めたが、山崎は首を振った。有沢は山崎のその態度に虚ろな視線を向け煙草に火を付け窓の外を眺めた。
「何も見えない・・。真っ暗だ・・」
窓からの景色は全く無く、ただ激しい雨だけが叩きつけていた。有沢は何気に窓を見つめ、硝子に映る自分と隣に座る山崎の姿を虚ろな目で見ながら今までの事を思い浮かべた。
司令官である山崎からの連絡が途絶えてから必死の捜索が続き今まで長い時間を費やした。もう少し早く見つける事が出来ていたならば事態は進展していたことだろう。だが、助けた時はもう遅かった。今、隣に座る男は覇気のある司令官ではなく魂の抜け殻だ。いままで恋人と思っていた小佐井蛍子に心を奪われ、その本性を知ってしまったのが余ほどショックだったのだろう。このまま隣に座るこの男を司令官としてもう一度迎えるべきなのだろうか・・。不信感が募っていく・・。既に敵は世界を完全制圧した。その巨大な力に少人数の我々がどう立ち向かっていくべきか・・。その指導力が今の司令官にあるのだろうか・・。また胸の中に一物の不安を感じる。
「有沢・・」
突然、隣に座っている山崎が声を掛けてきた。有沢は、はっと我に返った。
「熱いコーヒーをくれないか・・。ミルクも砂糖もいれないで・・・」
山崎は俯いたまま小さく言った。
「分かりました・・」
有沢は山崎の前を跨ぎ通路へと出た。
「まてよ・・。この場面は前にも体験している・・。同じ事が起こっている・・。そもそも我々は何故この新幹線に乗っているんだ・・」
有沢の頭の中でもやもやとした不信感が広がり苛立ちを感じた。そして目の前にある連結の自動ドアに向かった。
「有沢!そっちじゃない!」
突然、山崎が目を見開き怒鳴った。
「やはりそうだ。前にも一度体験している」
そう直感した有沢は山崎が止めるのを無視して構わず自動ドアの前に立った。自動ドアがゆっくりと開く。その瞬間・・。
怒涛の洪水が有沢に押し寄せてきた。
「はっ・・!」
有沢は目を見開いた。そこは狭い小さな部屋だった。顔を見上げると数名の同志が立っていた。どうやら倒れこんでいたらしい。しかし目の前の同志の姿は銃を構え自分に向けられていた。
「有沢隊長。あなたを逮捕、監禁します」
立っている一人の男が言った。有沢は訳が分からなかった。
「あなたは山崎司令官の殺害の容疑が掛けられています。真相が判明するまでご辛抱願います」
その一人の男は淡々と丁重に言った。
微弱な頭痛がするなか、少し体を起こし側に横たわる人物に気づき、ゆっくり振り返った。そこには簡易ベッドに横たわる山崎の遺体があった。・・・つづく