第七章・信仰と罪(10)
礼拝堂で起こっている騒動に寝ていた信者がぞろぞろ集まってきた。・・・が、予想をもしない光景でその場に立ち尽くしている。
「本音が出たところでもうあなたの立場もおしまいよ」
遠藤広子は立ち上がった。代表は黙っている。
「我々と目的は違えども世界を救い敵を倒す事は同じよ。ただ、あなたのやり方が間違っただけ・・。信仰が正しいと思うならもう一度悔い改めなさい」
遠藤広子は代表を慰めるように言った。
「あなたとは争いたくはない。これだけ大勢の人達をまとめて守ろうとしているのだから、本当は優しく強い心の持ち主なのよ。それに私の命の恩人だわ」
遠藤広子は代表を説得していたが、当の本人はまだ黙ったままでいる。
「もう止めましょうこんなこと!ミサイルを止めてください!そしてもう一度私達が一からやり直せばいいじゃないですか!!」
No.6が代表に訴えた。しかしまだ代表は黙ったままでいる。
礼拝堂が沈黙に包まれた。遠藤広子とNo.6は元より誰しもが代表を見つめている。
代表は無表情のままゆっくり口を開いた。
「私は今まで神の下で仕えてきた・・。そして神の伝える言葉に耳を傾けそれを実践した・・。造られた(うまれた)時からそれが私の使命だと信じてきた・・。それが間違いとしたら私のしてきたことはなんだったの!私は何のため此処にいるの!私の存在はなんなのよ!」
代表は涙を流し感情的に手に持っていた木のハンマーで机を叩いた。
「そんなこと私だって分からない!」
遠藤広子が大声で叫んだ。
「目的を見失わず間違った方向にいかなければ、自分の存在がそこにある。此処に居るという証、No.6が言った我々とあなた達が出会った証。野生の世界では自立しないと生きていけないかもしれないけれど、あなたは独りではなくNo.6やあなたを頼りに集まった人達と繋がりを持って強く生きていくのよ!」
「そうですよ!代表!」
遠藤広子とNo.6が大声で訴えた。
「ふっ、ふっ、ふ、ふふふふ・・」
代表は俯いたまま薄ら笑いを始めた。
「野生の世界では自立しないと生きていけない代わりに、神は人間という私達に自殺といった死の手段をお与えになった・・。私は生きていくのに疲れたわ・・」
そう言って代表は裾から出した毒薬を口にした。
「待って!」
遠藤広子は代表に駆け寄った。
「代表ー!」
No.6も走り出した。代表は全身の力が抜けるようにゆっくり倒れこんでいく。周りを取り囲んだレジスタンス達も驚き目を見開いた。
「しっかりしなさい!私はまだあなたに聞きたいことがあるのよ!」
遠藤広子は代表の肩を抱き上げた。
「最後にあなたに会えてよかったわ・・」
代表は重い瞼を閉じようとしている。
「眠っちゃ駄目!起きなさい!あなたと同じ顔が別の所にも居たの!あなたは一体誰なの!何か知っていることがあれば教えて頂戴!」
遠藤広子は代表の体を振った。
「楽しかったよ・・、お姉ちゃん・・・」
代表はか細く思い出に耽るように言った。・・・そして力尽きた・・。
「代表!・・」
No.6が代表の亡骸を抱きかかえ泣きじゃくった。
「お姉ちゃん・・」
遠藤広子は永眠した代表の顔を見つめ呟いた。・・・つづく