第七章・信仰と罪(9)
駅の構内の真ん中に遠藤広子とNo.6が跪かされ、その周りには銃を二人に構えた白マントの女達が囲っている。
祭壇からは鉄十字の紋章を後ろに代表が二人を見下ろしている。
「今より懺悔の儀を執り行う」
代表は木のハンマーを持ち裁判気取りだ。
「まずはそなたの身分を明かせ」
代表は遠藤広子に言った。
「その前にあなたは何様のつもり!私達を強制的に連行して、有無を言わさず銃を私たちに向けさせ命令口調のその態度!頭に来るわ!」
遠藤広子は代表の言葉を跳ね返した。その隣ではNo.6が怯えている。
「運び込まれた時には虫の息だったのに威勢がよくなったのね。あなたがここまで元気になったのは誰のおかげ・・。感謝するどころか痣で返すなんていい度胸だわ」
代表は薄ら笑いながら言った。
「私はあなたのにやけ顔が嫌いなのよ!」
遠藤広子は代表に噛み付いた。
「あなた今の状況を把握している。私が指示を出せばあなたの体に鉛球が飛んでくるのよ。あなたの命は私が握っているのよ・・」
代表は遠藤広子に上から目線で言った。
「私の体力を回復してくれた事には感謝しているわ。しかしあなたの考えは間違っている!そんな事をしても何にもならないわ!」
遠藤広子は代表に向かって投げかけた。
「新人類を絶滅させるなんて!本当なんですか!代表!」
突然No.6が代表に向かって叫んだ。
「あなたいま私の心を読んだの・・」
遠藤広子は隣にいるNo.6の顔を見た。
「“愛”のある人間らしさをプログラムして社会を善い方向へと導こうとしていた事は嘘だったのですか!それでは私達の『新境地』は何だったのです。構造は違えども新人類達も私達と同様、生きているのです。それを抹殺するなんて・・」
No.6は大粒の涙を流した。
「No.6・・。私もあなたと同じく最初はそう思っていた。・・しかしもう手遅れなのよ・・」
代表はNo.6に優しく言った。
「そうよあなたの考えは間違った方向へと歩みだした!」
遠藤広子は代表を睨んだ。
「黙らっしゃい!あなたのようなよそ者に言われたくないわ!」
代表は遠藤広子に向かって叫んだ。
「代表・・。止めてください・・そんな事・・」
No.6は涙を流しながら訴えた。
「私も出来ればこれだけは避けて通りたかった・・。だけど神が導き出した答えなのよ・・野生の動物は自立しないと死が待ち受けている。新人類もそう、プログラムの更新が止まると死ぬしかないのよ。しかし私達のウィルスは何度やっても軌道を回る衛星のシステムを破壊できなかった。私達の希望である“エンゼル・スマイル”は意味がなかった。そこで神に祈ったわ。心の底から毎夜毎晩、何度も何度も・・。そうしたら私に“世界中に埋もれている核ミサイルを打ち上げろ”と“自立の出来ない世界を一から変えろ”と啓示が来たの。そこで私は自分の意思を改めたわ。そう私達の『新境地』は今の世界を破壊してもう一度創世させる事なのよ」
代表はNo.6にゆっくりと切実に語った。
「そんな事をしたらこの地球がどうなるか分かっているの!」
遠藤広子は代表に向かって強く叫んだ。
「神など居ない事は此処にいるみんなも本当は分かっている筈よ!No.6が私を看病してくれる間、辛そうに言っていたわ。科学が発達しすぎた面白くない時代って!その答えは神ではなくあなたの妄想が導き出した結論よ!」
遠藤広子は銃を構える白マントの女達を見渡した。白マントの女達は少したじろでいる。
「どちらにしても、もう遅いのよ。既にミサイルは起動して打ち上げのカウントがされているわ。それにあなた達お二人の命のカウントも秒読み状態よ。No.6・・。ごめんなさい・・。知りすぎてしまったようね・・」
代表は白マントの女達に銃の焦点を二人に向かすよう合図をした。
その時。一発の銃声が構内を轟き一人の白マントの女が持つ銃を羽落とした。
「そこまでだ!全員持っている銃を下ろせ!」
レジスタンスのメンバーが周囲を取り囲い銃を構えている。
「助けに来ましたぜ!」
特攻隊長が遠藤広子に向かって手を振っていた。
「ありがとう!待ってました!」
遠藤広子はにこやかに笑って手を振り替えした。・・・つづく