第七章・信仰と罪(6)
No.6が遠藤広子を気遣い医療室に向かう途中、通り過ぎる部屋を案内してやっていた。部屋といっても元々は地下街の店舗である。あらゆる名前の看板が当時のままで残っている。
「此処は私達の娯楽室。そして此処が食堂。トイレは標識が有る所。男性はいないけどね・・。地下からの熱で浴室もあるのよ。あとは何組かで個人の部屋になっているわ」
No.6はお客を相手するように楽しそうに説明している。
遠藤広子はNo.6の喋っていることがあまり耳に入らず、まだ疲れが顔に出ていた。
「あと此処はコンピューター制御室。関係者以外は入れないけれどね」
No.6の案内は続いている。
「あのぉ・・」
遠藤広子の力の無い声がした。
「なに!」
「何故、あなた達はこんな薄暗い地下で暮らしているの?・・」
遠藤広子は虚ろな目でNo.6を見つめた。
「あなた知らないの!まぁ、まだ記憶が戻っていないから当然かもしれないけれど、外の世界には酸素が無いのよ。記憶が戻ったらそんなことも思い出すわ」
No.6は冷めた口調で言った。
「酸素が無い!・・」
遠藤広子は驚いた。
「遠い昔、山という山はほとんど削られ無くなったの。それで森林が無くなった所為で酸素が合成することが出来なくなり二酸化炭素だけが溢れ出したの。あなたを含め私達不良品はその酸素が無いと生きていけないの。だけど新人類たちはそれで生きていける。不釣合いな世界が生まれたのよ」
No.6は悲しそうに語った。
「今の科学技術で大量の酸素も作れるわ。しかしそれをしたところで社会が変わらないことには意味が無いわ。私達が勝たなければこの穴蔵からも一生出れない・・」
No.6の表情が暗くなった。
「『新境地』って何?・・」
遠藤広子は気落ちしたNo.6を見つめ静かに聞いた。
「自由のように振舞っているが感情が無く愛を失い秩序を見失った社会を目覚めさす為、私達は願っているの。先っきのコンピューター制御室から軌道を回る政府の衛星にウィルスを送り込み破壊するのよ。代わりに私達の正しい教えをプログラムして、その信号を新人類たちに更新させるの。それが“エンゼル・スマイル作戦”よ。そうすれば“人間”(ひと)らしさを取り戻してくれるわ。無くしていた愛も見つかる筈よ!」
No.6に笑顔が戻った。
「ごめんなさい・・。なんだか難しくて分からないわ・・」
逆に遠藤広子の表情が暗くなった。二人は医療室に着きNo.6は遠藤広子をベッドに寝かせた。
「あっ、いま喋った事は機密事項・・。内緒にしてて・・。みんな不安がっているから心配させたくないの。清らかなあなたの心を見てたらついつい喋ったけど」
No.6は照れ隠しに舌を出した。
「私の心?・・」
遠藤広子は不思議がった。
「私みたいな新人類の不良品は時折生まれがって特殊能力を持ち合わす場合があるの。私は他人の心を見透す才能があるみたい。だから黙っていても考えている事はお見通しなのよ。だけど・・一人だけ、代表の心だけは曇っていて何を考えているか見えないの。」
No.6は遠藤広子に毛布を掛けながら言った。
「早く記憶が戻るといいのにね」
「がんばるわ」
「なんだか私たちって、知り合ったばかりなのに昔からのお友達みたいね」
No.6は笑って見せた。・・・つづく