第七章・信仰と罪(5)
翌朝、いつもと同じよう駅の構内で礼拝の儀が行われていた。
遠藤広子は昨日ぐっすり睡眠を取りNo.6と一緒にその集会に参加した。
「主よ汝の世界に光を与えたまえ」
「これはどう言う意味」
遠藤広子がNo.6に小声で聞いてきた。
「今の新人類社会から私達の様な人間らしさのある社会に変えていこうという願いよ」
No.6が小声で答えた。
「主よこの腐敗した世界に力を与えたまえ」
「これはどう言う意味」
遠藤広子がNo.6にまた小声で聞いてきた。
「先っきの願いと同じ意味合いだけど、失った“愛”を取り戻そうと切実な思いね」
No.6がもう一度小声で答えた。
「主よ我等を勝利に導き給え」
「これは・・」
「その為に私達は間違った世の中を正しく標すよう日々がんばっている訳よ。平和と秩序の世界、『新境地』を築くのを目標としているの。だけど私達が負ければこの世界がずっと続くの・・。このことは後で説明するわ」
遠藤広子が聞く前にNo.6が答えた。
「私達の組織は同じ志しで鋼鉄の意思を持つ聖者達の集まりなの。証である鉄の十字架がそれを顕しているわ」
No.6は鉄十字の紋章を凝視し一心になっていた。遠藤広子は黙ってNo.6を見つめていた。
集会が終わり他の大勢のものは立ち去っていくなか、No.6と遠藤広子は祭壇に立つ代表の下へと歩いていった。
「此処に集まっているのが女性ばかりなのは何故?」
遠藤広子は歩きながらNo.6に囁いた。
「私も詳しくは分からないの。不良品の集まりだから多分、DNA構成の失敗じゃないかしら・・」
No.6が答えながら遠藤広子と祭壇の下まで来た。
「代表、少し身体の調子も良くなったようですので集会へお連れ致しました」
No.6が代表に向かって言った。
天を仰いでいた代表がゆっくり振り向き遠藤広子の顔を見た。
「お身体、大丈夫ですか・・」
その瞬間、遠藤広子は動転した。急に頭の中が混乱し覚えの無い記憶の場面がフラッシュバックする。足元がふら付いた。
「危ない!」
No.6が遠藤広子の体を支えた。
「ごめんなさい。急にめまいが・・」
遠藤広子は頭を抑え悲痛な表情になった。
「まだ、具合が悪いようですね。シスター、医療室にお連れして。ゆっくり休みなさい」
代表が心配そうな顔で言った。
「分かりました。代表」
No.6は丁重にお辞儀をして遠藤広子を抱え後にした。
代表は無表情の顔に変わり二人の後姿を祭壇の上から見ながら、後ろの物陰にいる者に言った。
「当分の間あの二人を監視しろ。また他に不振を抱く者がいれば見つけ出せ。そしてその者を懺悔させるのだ」
代表の口元がゆっくり上向きになった。・・・つづく