第七章・信仰と罪(1)
喧騒とした慌しい日常よりほんの少しだけ現実を忘れ、自由に想像を膨らませ空想の部屋へお越し下さい。お付き合いいただけるひとときの間、あなた様はどのような夢を見ていただけますでしょうか・・・。
薄暗く冷たい湿気じみた空気が流れる廃線した地下鉄跡。その奥にある地下街が広がった比較的大きな駅の構内で、同じ白いマントを羽織った女性達が怪しげな集会を開いていた。
祭壇に上がった一人の女性代表が、鉄の十字架の紋章に向かい信者に背を向け賛美を挙げている。
「主よ汝の世界に光を与えたまえ」
「主よ汝の世界に光を与えたまえ」
代表の後に続き、賛同した女性達が復唱している。
「主よこの腐敗した世界に力を与えたまえ」
「主よこの腐敗した世界に力を与えたまえ」
次第に声が大きく仰ぐ。
「主よ我等を勝利に導き給え」
「主よ我等を勝利に導き給え」
集まった女性達の歓声が頂点を達した。
長き時間に渡った神への崇拝が終わると集まっていた女性達はそれぞれ別れていった。
群れが散らばっていくなか、一人立ち尽くす若い女性がいた。彼女は少し時間を置き天を仰ぐ代表に歩み寄っていった。
「代表。何時になれば私達の目指す世界になるのですか?」
祭壇の上で天を仰ぐ代表に囁く様に言った。
「分かっているとは思いますが、それは神のみぞ知る事です」
代表は天を仰いだまま間を置いて言った。
「しかし、時が経つ程この世は腐敗の一歩を辿ります」
その女性の声が少し大きくなった。
「今の人たちに説教を伝道しても聞いてはくれません。時が来るのを待つのです」
代表は目を瞑ったまま天を仰いでいる。
「この世にいるのは人間ではありません!感情の無いロボットです!」
女性の声が怒りの高い悲鳴になった。
「ですから、時が来るのを待つのです。私達の目標達成までもうじきです」
代表はゆっくり瞼を上げ、その女性に顔を向けた。
「しかし、一向に兆しが見えてきません」
女性は一滴の涙を浮かべた。
「この世には神が示してくれた道標があるのです。それを待つのです。それに私達は間違いを修正する義務があります。正しい事をしている自身を持つのです」
代表は優しく女性に問いかけた。
「分かりました。代表」
「判って頂ければよいのです。シスター」
女性は深くお辞儀をして立ち去っていった。
代表はその女性が立ち去るのを見送ってから、後ろの物陰にいる者にそのままの姿勢で声色を変え命令した。
「今のように不振を抱く者に警戒しろ。それに早く“エンゼル・スマイル作戦”を成功させるのだ。私達の目標、『新境地』を作り上げる為に!」
代表は陰の者の方へゆっくり振り返り、幼い顔で妖しく微笑んだ。・・・つづく