第六章・帝国の滅亡(7)
遠藤広子はようやくの思いで扉を破り廊下へ出た。火の手はすでに廊下まで迫っており、目の前には火柱が立ち炎が襲い掛かってくる。
「チーム全員が車に戻ったらすぐにこの場から逃げるのよ」
遠藤広子が無線マイクに声を張り上げた。
「ご無事でしたか!しかしリーダーを置いては行けません!助けを迎えに行かせます。レーダーが壊れたようなので居場所が分かりません。場所を教えてください」
イヤホンから救急車で待機している青年の声が返ってきた。
「私は脱出口を探してから後から行くわ。それよりすぐにでもこの建物は崩壊寸前よ!いい、これは命令よ!すぐに逃げるのよ!」
遠藤広子がそう言い終えると無線は途絶えた。
救急車の中では青年が応答を続けていた。そこへ戦闘服の男たちが戻ってきた。
「なんだこの車の周りは!まだ催涙ガスの異臭が立ち込めているぞ」
リーダー格の男はその青年の不安げな行動を察知した。
「リーダーはどうした!?」
青年は言葉を失っている。
「司令官はどうしたと聞いているんだ!!」
リーダー格の男は青年の肩をつかみ自分の方向へ向かせた。
「連絡が・・・、途絶えました・・・。居場所も分かりません」
青年は力の無い声で言った。
「よし!全員捜索に行くぞ!」
リーダー格の男は戦闘服の男たちに号令を出した。
「ちょっと待って・・。全員揃ったらすぐに此処から逃げろとの命令です」
青年はか細く言った。
「そんな命令が聞けるか!」
リーダー格の男は勢いよく車の後部ドアを開けた。その時、突入した急患用入り口が爆発炎上した。
「くそっ!塞がれたか!」
リーダー格の男は苛立った。
「リーダー諦めて下さい。建物は炎に包まれています。それに・・司令官の命令です」
後ろから戦闘服の一人の隊員がリーダー格の男の肩に手を掛けた。
「司令官の幸運を祈ろう・・」
思いを胸にリーダー格の男は後部ドアの扉を閉め救急車は猛スピードで走り出した。
走り出した車を背に仕掛けた爆弾が次々と破裂するなか、小高い丘にある小さな病院は炎に包まれ、象徴である大きな鐘の時計塔は崩れ落ちていった。・・・第六章おわり
誰しもが一度は興味を持つ未知の世界、恐怖を感じながらその好奇心を駆り立てる。ただ空想のお話で止まらず自分自身に置き換えたらどうだろう。「次は我が身!」想像力を膨らませ、話の展開に没頭し、登場人物と一緒に物語のなかに同化していく・・。次回もこの部屋でお待ちしております。