第六章・帝国の滅亡(6)
院長室・・。レコードプレーヤーからのスピーカーからクラシックのショパンの曲が流れ、院長は皮の椅子にもたれて目をつぶり静かに音楽を聴いている。しかし急に水を打ったかのごとくその静けさを崩し電話のけたたましいベル音が部屋中に響き渡った。院長は目を見開き電話を睨み付けゆっくりと受話器を取った。
「はい・・。それは私の不手際でした・・。はい、そうですが・・しかし反動分子は排除しました。分かっております・・。こちらは直ちに修復にかかります。はい・・。私の処分はそれからということで・・・」
院長室が一瞬にして緊迫の空気が立ち込めた。院長の頬からは嫌な脂汗が流れだしていた。院長室は息を飲み込み話し終わるとまたゆっくり受話器を置いた。
そこに次はドアをノックする音が部屋中に響いた。院長は咄嗟にドアに目を向けた。
「何!」
院長はドアに向かい低い声を張り上げた。
「反動分子は全て排除いたしました」
ドアの向こうから返事が返ってきた。
「分かりました。行ってよろしい」
院長は皮の椅子に再びもたれた。
「その指示には従えませんわ」
そう言ってドアを開け遠藤広子が拳銃を向け入ってきた。
「排除したのはあなたたち“帝国”のほうよ」
院長は身構え目は鋭く遠藤広子を見た。しかしゆっくりと得意の笑みを浮かび始めた。
「遠藤さん・・。・・ショパンは聞いたことある。安らかなピアノの調べ・・。心が落ち着くわよ。それにアナログはデジタルと違って音がいいのよ。だけど結局、いまとなっては時代遅れなのよね。そう、あなたたち同様、過去の産物よ。もう旧人類は必要ないのよ・・」
「旧人類って失礼ね!しかしようやく院長もアナログの良さが分かったかしら。デジタルって便利だけどそれに扱われてうぬぼれるアンドロイドも一緒よ!」
遠藤広子は皮肉っぽく言い返した。
「新人類よ!本当あなたのようなアナログ人間はおとなしく死ねない人ね!」
院長は声を張り上げ言い返した。ここまで来れば女の言い争いである。その時遠くから大きな爆発音が聞こえ部屋中が揺らいだ。
「何!」
院長は周囲を見渡した。
「マリア様も最後まであなたを見守れなかったようね。このお城は崩壊したわ・・。お姫様・・」
遠藤広子が仕掛けた筒状の物体が破裂し聖母マリアの大きなステンド硝子を粉々にしたのだ。
その爆発で吹き上がった炎は勢いを知らず病院のシンボルである時計塔の鐘まで届いた。その勢いで大きく鐘が揺れどよめく様な鐘の音が響いた。
遠藤広子は院長の真似をし微笑んだ。
院長はあせりと諦めの入り組んだ表情になった。
「そのようね・・。私の負けよ。だけど一人で死ぬのは嫌よ」
そう言って院長は机に隠されたスイッチを押した。すると部屋の扉の鍵が閉まり、瞬く間に部屋中が炎に包まれた。
「あなたがお城で例えるなら、此処はお菓子で出来た小さなお城にすぎないわ。それをあなたは食べただけ・・。それとも砂で作ったお城を崩しただけかしら・・。楯突いても無駄よ。“帝国”はあなた達だけの力じゃどうにもならないわ」
そう言うと院長の体は炎に包まれた。
「New Age Beginning!」
院長は手を大きく翳し叫んだ。
遠藤広子は襲い掛かる炎を振り払いながら院長の最後を見とどけた。・・・つづく