第六章・帝国の滅亡(5)
「どうやらその場所の緊急用のセキュリティシステムが稼動したようです」
車で待機していた青年が無線で伝えてきた。
「他のチームのいる場所は機能は停止したままで無事のようです。隊長、運が悪いですね。気を付けてください、猛獣や猛毒を持つ生物がうじゃうじゃいますよ」
「分かった他のチームには次のプランに掛かるよう伝えてくれ。それから面白がっていないでなんとかしろ!」
リーダー格の男の声がスピーカーから響き渡った。
「言われなくても今やっている最中ですよ。それともうひとつ、我々以外の熱探知機が反応を示してます。今度は本当に気をつけてください。敵もうじゃうじゃ近づいてきていますよ」
青年の目の前にあるモニターにひとつふたつと赤い丸が点灯を始めていた。そのモニターはリーダー格の男がいる場所で、敵である赤い丸は次第に数を増やし仲間の戦闘服の男たちの周囲を固めていった。
「敵の数は合計六名。周りを囲まれています。位置はこちらから支持を出して・・・。わぁ!」
青年は別のモニターに眼をやった。
「どうした!」
リーダー格の男の声がスピーカーからでてきた。
「こちらも熱探知機が反応を示し始めました。忙しくなりそうですからそちらの対処の方はお任せします!」
無線の青年の声はそれで切れてしまった。
「くそっ!よし!猛獣狩りを始めるか!全員暗視ゴーグルを着用!」
暗視ゴーグルを透した景色は何も無い半透明な世界だった。
「隊長、これで敵の姿が分かりますか?」
横にいた戦闘服の男が耳元で小声で言った。
「どうだか・・。影でも反応すればいいんだが・・。あとは自分の感覚を信用して勘を頼りにしろ。ハイテク機械を信じてばかりじゃ俺たちは全滅する」
リーダー格の男は銃を構え直した。
車で待機している青年はキーボードを叩き、あらゆるプログラムを起動させていた。
「お前たちを信用しているぞ!僕を守ってくれ」
青年はハイテク機器に語りかけた。車の配置画面のモニターには敵の数である赤い丸の点灯が数を増していった。
「うわぁ、増えてきたぁ。この車にバリアを張って敵には見えないはずだがそれでも不安になってくるな。よし、もうちょっと近寄って来い」
青年は独り言のように喋っていた。自分の身に危険を感じ、焦りと緊張感がキーボードを叩く指先に伝わっていた。
「よし!来い来い」
赤い点が集まるのを見つめモニターに喋っていた。
「いまだ!」
青年はひとつのキーを勢いよく叩いた。
すると屋根から突き出たアンテナのような所からスプリンクラーが回り霧状の液体ガスが車の周囲を立ち込めた。近づいていたモニターの赤い点は遠退くように散らばっていった。
青年は緊張の糸が切れたかのように体の力が抜け、椅子にへばり付いた。・・・と、思いついたのようにマイクに向かってリーダー格の男に話しかけた。
「ご無事ですか、隊長!」
「お忙しいんじゃなかったのですか?先生・・」
リーダー格の男の声は冷静に返ってきた。
「何とか無事、やり過ごしました。そちらはどうですか?」
「そりゃもう、こちらもライオンや豹が襲い掛かってきて忙しかったですよ。しかし最後には野生の勘が勝敗を決めましたがね」
リーダー格の男の声が皮肉っぽくスピーカーからでてきた。戦闘服の男たちの周りには“帝国”の兵士が全員倒れこんでいる。
「こちらはハイテク機器の勝利ですよ」
青年も自慢げに言った。
「それにしてもどちらも長い時間を無駄にしてしまったようだ。さぁ早く他のチームと合流して此処から逃げ出すぞ!」
「了解!」・・・つづく