第六章・帝国の滅亡(2)
病院を見渡せる少し離れた場所に一台の救急車が待機している。しかしその救急車は他と違い屋根に大きなパラポラアンテナが設置され天を仰いでいる。またその中は緊急の医療機器は無く、代わりにコンピューターを始めあらゆるハイテク通信機器が装備され所狭しと並べられていた。
「5・・4・・3・・」
遠藤広子と同じ戦闘スーツを着た男がカウントをしている。
「1、いまだ!」
もう一人のパソコンの画面に向かった青年に言った。
「了解!」
その青年はキーボードを叩いた。
彼方から病院の朝七時の時を知らせる鐘が鳴るのが聞こえてくる。
「うまいこといったか・・・?」
「あとは連絡を待つだけです」
二人は目を合わせ不安げな表情になっていた。
「成功よ!次のプランに移って」
無線のスピーカーより遠藤広子の声が響いた。
「よし!」
二人は安堵の表情を浮かべガッツポーズを見せた。
「全チーム出動!」
遠藤広子からの連絡を受けると戦闘スーツの男はすぐさまマイクに向かって支持を出した。
その滑稽な救急車と病院を囲むように待機していた他のチームの乗ったジープが一斉に病院へ向かって走り出した。
「今から我々は“帝国”の基地である病院を制圧する。最後にもう一度諸君に連絡する。くれぐれも目にするものも信用するな!すべてを疑ってかかれ!それが自分の身を守る術だ」
戦闘スーツを着た男は無線マイクで救急車より全車両に伝えた。この救急車が主になり無線交信の中継基地になっている。
チームの車は全速力で病院の範囲を狭めていった。
遠藤広子は霊安室の扉を勢いよく開け駆け出していった。背中に背負った筒の重みが負担になるが走るスピードは落とさず次に非常階段の扉を蹴り開け駆け上がっていった。一階に着いたときには、体中で息をしていた。
「私も歳ね・・」
ロビーを見渡すと壁には亀裂が走り、待合用の多くの長椅子は散乱し、まるで巨大なエネルギーが病院全体を襲ったような有様だった。
そこに居た病院関係者は皆、地下で固まっている看護婦長と同じく体は硬直し動かなくなっていた。
遠藤広子は背中に背負った筒を降ろしながら、ゆっくりと病院の顔でもある真正面の聖母マリアの大きなステンド硝子の前まで歩いて行き見上げた。
「やはりこれね・・」
鼓動は高く息はまだ整っていない。そこへ後ろから聞き覚えのある低い声が聞こえてきた。
「探し物は見つかったかしら・・・」
咄嗟に振り返るとそこには幼顔をした院長が立っていた。・・・つづく