第五章・我等が為に鐘はなる。ー第五部/白い城壁ー(1)
“白い城壁”。それは政府の上層部の幹部たちのために作られた最先端の医療施設。
“白い城壁”。それは難解の孤島に建てられた。
“白い城壁”。それは巨大病院であって要塞。
“白い城壁”。そこに“指導者”がいる。
大晦日丑三つ時。
海軍士官の仲間が資力潜水艦を打破し我々はそれに乗って“白い城壁”へ乗り込んだ。島の沿岸で艦を着けそこからは何台かのモーター付のゴムボートで接近した。それだったらセキュリティレーダーに捉えられないだろう。近づくにつれ島の概観が見えてきた。それは断崖絶壁にそびえたち侵入者を諸ともしない趣だ。我々はゴムボートを島の縁に着け、その断崖絶壁の崖を登っていった。登山経験のある仲間が先頭に立ちそれに続いた。急斜面を登るのは過酷で険しいものだった。しかし俺にはリーダーとしての自覚がある。そして我々には“指導者”を倒す目的がある。それに向かって着実に腕を伸ばしていけば容易い事だろう。しかし凍てつく強風がその目的を妨げる。何名か脱落する仲間たちもいた。だが此処まで来て中止するわけにはいかない。俺は零れる涙を抑え歯を食いしばった。どれだけの時間がかかったのだろう。俺は先にたどり着いた仲間に腕をひっぱられ頂上に登りつめた。そこにはまた見上げるほどの高くそびえた塔があった。サーチライトで白く輝いたそれが“白い城壁”だった。
大晦日明けがた。
その日は小雨がぱらついていた。我々は銃を構え“白い城壁”へ向かって走った。崖を登りつめ見たときには気がつかなかったが、建物の外壁はステンレスのようなもので出来ておりそれがサーチライトで照らされ灯台のような役割をしている。真正面からの見た目は三角の花瓶のような形になっているが近づくにつれ奥行きは長く、屋上にはヘリコプターが何台も着陸できるヘリポートがあるようだ。身をかがめ接近していったが警備は薄く無防備状態だった。その答えはようやく建物まで来て分かった。どこを探しても入り口が無いのだ。屋上にあるヘリポートからがなかに入るすべての玄関口となっているのだ。此処まで来て!俺は悔しかった。手当たり次第にいたる所の壁を叩いていった。どこか隠し扉があるはずだ。しかし予想は外れた。どこも分厚い壁が覆っているだけだった。俺は脱力感を感じその場で跪いた。そこへヘリコプターの羽音が聞こえてきた。飛んでくるモーター音が近づいてくる。“見つかった”そう思い銃を構えた。軍用だろうか・・。何のマークも無い真っ黒なヘリコプター。それが我々の目の前に着陸した。我々は銃を構え建物の陰に隠れた。手を挙げて降りてきたのは黒いスーツを着た見知らぬ顔の男・・。と、その後ろからは銃をその男の背に向けた彼女が微笑みながら俺たちに手を振った。・・・つづく