第一章・侵略組曲(3)
「あぁ・・・分かった」
拍子抜けした返事になった。窓際の男は立ち上がり隣に座る通路際の男をまたぎ通路へと出た。その時遠く離れた自動ドアの扉が開きワゴンサービスが入ってきた。ウェイトレスは軽くお辞儀をしてワゴンを押して歩いてくる。
「丁度よかった」
窓際の男は彼女を呼んだ。
「ホットコーヒーをくれないか。ブラックでふたつ」
学生のアルバイトだろうか、まだ幼い顔をしている。ウェイトレスは無邪気な笑みを浮かべ、弁当やおかしが並んだワゴンの蓋を開けそして思いもかけない物を取り出した。
「えっ!」
窓際の男はぎょとした。
「何をしているのかな・・・。僕はホットコーヒーを注文したんだよ」
窓際の男の体は硬直している。
そのウェイトレスは無邪気な笑みを浮かべたままピストルの銃口を窓際の男に向けていた。
「からかわないでくれ!何の冗談だ」
言葉が震えていた。
「コーヒーなんて飲んでいる時間なんてないわ。さようなら」
幼い顔のわりには低い声だ。
ウェイトレスは無邪気な笑みを浮かべたままピストルの引き金を引いた。鈍い衝撃音とともに銃口から火を噴いた。銃弾は一直線に窓際の男の心臓を貫いた。
「山崎・・・」
崩れ倒れた窓際の男のとっさに出た言葉だった。
薄れいく意識のなか通路際の男のほうへ視線を向けた。しかしそこには誰も座ってはいなかった。次第に視界が狭まり意識が遠のいていった。
「ありがとうございました」
ウェイトレスは無邪気な笑みを浮かべワゴンをもと来た方向へとまわし歩いていった。
そこには通路に倒れた窓際の男だけが残され、何もなかったように窓には闇のなかから激しい雨がただ叩きつけているだけだった。
男はベッドから飛び起きた。
そこはいつも見る薄暗い部屋のなかだった。部屋中を広がる独特の薬の匂いがつんと鼻にくる。
「またあの夢か・・・」
体じゅうにじっとりとした汗をかいていたが、もう一度横になりそのまま深い眠りに落ちていった。・・・つづく