第四章・第三戦争始まる(4)
青い空に青い海。南国の植物が茂り、穏やかに温かい風が吹く南の島。バカンスには持って来いのロケーション。しかしそこには場違いな建造物が建っていた。銀色に輝く発射台。存在感を露にする巨大なパラポラアンテナ。それに見上げるほどに立ちはだかる人工衛星を積んだロケット。デジタル衛星の打ち上げを目前に控えた宇宙センターである。
見渡すぐらい周りは海だけの孤島になっているこの島。以前は無人島だったがいつの頃から政府が関与してセンターの建設が始まった。関係者は朝と夕方1日2本でる高速艦の送迎船で勤務している。勤務時間は交代制で24時間フル回転で動き続けている。
いまここでは打ち上げの最終チェックが行われていた。関係者は誠実に的確に作業をこなしている。勤労な姿にも映るが、見方を変えれば寸分の狂いもなく動くロボットのようだ。
そのまじめに取り組む作業員たちを監視カメラのモニターから見ている者たちがいた。
「第一段階は成功だな」
「いや、初期段階に過ぎません。まだまだこれからです。衛星が打ち上げられ軌道に乗ってからが第一段階の成功です」
「彼らはいつまであの状態が続くのだ」
「電波が発信されている限り半永久的に続きます。いまのところ島の範囲に限らさせておりますが、それが地球全体を覆う訳です」
「我々は大丈夫なんだろうな!」
「心配ご無用。彼らは自分が実験台にされていることも知らずいつもの日常を送るのです。いままでどおりこの島から家路につく頃には普通の人間になっていますよ」
「何のために」
「何のため・・・。君は新しい顔だね」
「政府調査室の者です。ここでの臨床実験が適切に行われているか査察に来ました」
「臨床実験・・・。おかしなことを言うね。既に各国には通知が送られて同意しているとは思うが、我々は国務に乗っ取って遂行しているのだよ。まっ、先の質問に答えよう。人類は次の進歩の段階に来ている。それを世界じゅう国を挙げて協力し合おうということだ。それこそ理想郷を築くために」
「理想郷・・・」
「人類の歴史のほとんどは無駄な時間を費やしてきた。それを解消しようとしているのです。何故、同じ間違いを繰り返すのか分かりますか?それは余計ないらぬ考えを持つからです。それを強制的に制御して社会を構成させるのが、我々の任務、全世界規模の大プロジェクトなんですよ」
「人間をリモートコントロールするということですか・・?」
「いや基本的には自分の意思で動きます。我々は少し脳に刺激を与えるだけです」
「それで感情のないアンドロイドの出来上がり・・・」
「嫌な言い方をなさいますね・・。新人類の誕生ですよ・・」
「過去に何回か妨害を受けていますね。我々の計画が漏れているのではないですか?」
「一部の過激な連中が勝手に騒いでいるだけです。心配はございません。もしその飛び火が移ってデモが起こっても警察が鎮圧してくれます。本当のところは誰も知ることは出来ません。内部精通者が入れば別の話ですが・・・。ところであなたの名前は・・」
説明をしていた男の目が鋭くにらみを効かせた。
「失礼、申し遅れました。調査官の有沢高仁です」・・・つづく