第四章・第三戦争始まる(3)
今となっては少しは後悔しているが断った。小さな囲いに記事が載ったところで目に入るものも少なく、リサイクルゴミに捨てられ忘れ去られるだけだ。出来れば世間を巻き込み騒がしたいが、特集記事までには持ち込みたい気持ちはある。それだけの拘りと自信があった。それ以上にこの政策に自分のなかで何か引っかかるものがあるからだ。こうなれば直接確かめにいこう。衛星の打ち上げの現場に乗り込むのだ。
「…という訳で、少しばかり先立つものを貸してはくれないかね・・・」
「先立つものってなによ!」
「先立つものといえば・・お金でしょ・・・」
「お金っていくらよ!」
「そうだねぇ・・。10万円ほど・・・」
そう言った途端、山崎の顔におしぼりが飛んできた。
「あんたねぇ!」
「だから・・悪いなぁと思って焼肉もごちそうしているじゃないか・・・」
「1時間食べ放題のをね!」
山崎の目の前に座っているのは、小佐井蛍子。数年前、国内線のスチュワーデスをしている蛍子と空港ですれ違いざま知り合い、付き合いが続いている腐れ縁の仲である。
「この前の貸したお金も何に使ったか覚えている?」
「あぁ、覚えているさ。火山の調査で北海道へ行って・・」
「何の成果も挙げられず、温泉に入って帰ってきた」
「今度は南の島なんだよ」
「ぶり返したくはないけどね、出会った頃のこと覚えている。自分はやり手のフリーライターだとか言って!結局あの時追ってた取材は何だったのよ」
「当時は大変だったんだよ。突然消えた三姉妹の失踪事件を追っていてね。調査ももう少しのところで気づくと蛍子に初めて借りたお金も消えていたんだよ。・・・塩タンおいしいね」
今度は箸が飛んできた。
「ごまかさないで!もう・・!私もたぶらかされたものだわ」
「まっ、そう言わずに。まだ食べる」
「もう時間切れでしょ。・・・しかたがない貸してあげるわ。その代わり私も連れて行きなさい」
その日の夕方、ボストンバッグを片手に二人は新幹線のホームに立っていた。
「なぜ新幹線なんだよ。飛行機のほうが速いじゃないか」
「飛行機はねぇ・・。性に合わないのよ・・・」
二人を乗せて新幹線は博多へ向けて走り出した頃、雲行きが怪しくなった空からは小雨が降り始めていた。・・・つづく