第三章・アンドロイドたちの夜(4)
大きく広がる鍾乳洞をぼんやり見つめ、まるで独り言のように喋る少女の話を板倉は目を閉じ聞いていた。体にたまった疲労をゆっくり回復させながらようやく自分の名前は思い出した。
静かになったので目を開き虚ろな視線を少女の屈んだ後姿に向けると彼女はうなだれ泣いていた。
「外の世界はどうなっているんだ」
板倉は静かに問いかけた。
「パソコンで人間を造りだす時代なんて馬鹿げてる。外の世界ではその不良品たちが感情もないロボット社会に暴動でも起こしているのか」
少女は涙で濡れた顔をあげた。
「不良品の人間は私たちを含めごく一部。社会は不良品とみなせばその場で反動分子とみなし、それを依頼した者とも処分させられてしまう。そんな味方のいない社会に向かって暴動なんて起こせないわ」
少女の目からはまた涙が溢れ出した。
「不良品呼ばわりしてるけどおじいちゃんの時代なら私たちは性格も感情もある普通の人間よ!無感情、無感覚すべてないもの主義が当たり前のあの時代が狂っていたのよ!」
少女の声が大きくなった。
「あの時代・・・。過去の出来事か・・・。じゃ今ここにいるのはなんのためなんだ・・」
「抵抗よ・・」
少女は落ち着いた声で言った。
「そんな時代が何年も続いたわ。しかし侵略者が現れたの。感情を失った人間たちは何も出来ずたやすく侵略された。私たちは同志を集め、おじいちゃんの頃の本当の人間社会を取り戻すためにレジスタンスを作りいま戦っているのよ」
また頭痛がしてきた。板倉は頭を押さえた。少女は板倉に背を向けたままでそれに気づいていない。
「どこの国が侵略しに来たんだ。いまの日本はどうなっている」
苦痛の顔にゆがみながら言った。
「日本・・。国・・。国なんてないわ。世界は1999年に一度滅んだのよ」
「なに・・!いまなんて言った!」・・・つづく