第一章・侵略組曲(2)
前回のあらすじ・・・二人の男を乗せ新幹線は猛スピードで走っていた。二人の男の関係は・・・?そして目的は・・・?
窓際の男は俯き屈み込んだままでいる通路際の男に虚ろな目を向け、小声で言った。期待はしていなかったが反応は無かった。
「いまどこを走っているのか分からないが、あれからかれこれ三時間にはなる。もうそろそろ着いてもいい頃だろう」
まったくなんの反応も無いのに心細くなってきた。
「しかし雨よく降るよなぁ。稲光までしているぞ」
通路際の男は黙ったままでいる。俯いた姿勢を崩さず微動だにしない。そんな姿を見ては、だんだんと自信なさげになってきた。
会話にならず独り喋っているのが嫌になったのか、窓際の男は再び窓に流れいく雨に濡れた景色に虚ろな目を向け、肘をついた。
雷光が走り、強い雨が容赦なく窓を打ちつける。一向に変わらない外の天候を何気に見ながらふと思った。
「真っ暗だ」
時折の雷光で一瞬明るくはなるが何も無い闇の世界が広がっていた。いままで見ていた鉛色がかった景色がもうそこには無かった。その闇の世界に土砂降りの雨が降る。自分が乗っている新幹線を一歩出れば一寸先も見えない嵐のなかと思うと背筋が寒くなった。
「まてよ・・・」
一筋の雷光が走りまたふと思った。
「俺たちはどこからこの新幹線に乗ったんだ。隣に座っている男は何者だ・・・」
肘をついたまま横目で通路際の男を見た。
「いままで何をしていたんだ。なぜ東京に向かっている」
あらゆる疑問が脳裏を掠めていく。自分が誰なのかも分からなくなり、頭のなかが混乱してきた頃、現実に引き戻されるように通路際の男が口を開いた。
「熱いコーヒーをくれないか」
その言葉に驚いて反射的に振り向いた。
「熱いコーヒーを・・・。ミルクも砂糖もいれないで・・・」
通路際の男は今までと同じ俯いた体勢でか細く言った。・・・つづく