第三章・アンドロイドたちの夜(2)
冷たい雫が頬にかかる。永い眠りから目が覚めるように瞼をゆっくり開いた。真っ暗な場所だということは分かるが視界がぼやけてはっきりとしない。そしてかなりの湿気が体に付着する。
「ここがあの世というところか・・」
もう一度瞼を閉じた。また冷たい雫が頬にかかる。間をおいて今度は体の感覚が目を覚ます。硬いベッドのようなものに横たわっているような感触。湿気とひんやりとした冷気が肌にあたる。かすかに息もしている。ここはまだあの世ではない。そう思った瞬間即座に目を見開いた。ぼやけた焦点をあわす。すると真っ暗な世界の向こうには長く伸びる鍾乳洞が広がっていた。またひとつ冷たい雫が落ちてくる。力を振り絞り硬くなった体をやっとのおもいで起こした。
「洞窟・・・」
ここがどこなのか頭のなかが渦巻いている。自分は誰だ・・・。どこで何をしていた・・・。なぜここにいる・・・。まったく整理ができない。
そこへ小柄な背丈の人影が自分に近づいてきた。
「お気づきになられましたか・・・。隊長・・・」
その少女は確かにそう言った。歳はまだ十代、どこかで見た顔だ・・・。
「隊長・・・?」
「お体の具合どうですか・・・」
少女は淡々とぎこちない様子で言葉を続けた。
「いいも、悪いも・・・。まだ頭がボーとしている・・・。経験はないが昏睡状態から目覚めた感じだ。それよりここはどこなんだ。君は誰・・」
虚ろな目で少女を見た。
「ここは私たちの家。アジトです。外の世界はすでにやつらに占領されている」
私たち・・。アジト・・。占領・・。疲労困憊した麻痺している脳細胞では何を言っているのか理解できない。まるで答えが見えないクイズのようだ。
「・・・で、君は誰」
もう一度少女に聞いた。この質問だと答えはすぐに分かるだろう。
「私はあなたに助けられた」
複雑に答えが返ってきた。・・・つづく