第二章・種の絶滅(8)
「えっ!何言ってんのよ!走っているでしょ!」
良子は目を見開き前を向いたまま大声で言った。
「聡子が言うとおり動いていないわ・・・」
望恵が視線を横の景色に向け呆然と言った。
車はどこに続いているか分からない一本道をやみくもに走っている。猛スピードで回転するタイヤが土石を蹴散らしている。確かに車は前に進み走っている。しかしそれは前方のフロント硝子に映る景色だけで後の周りの景色は止まったままだった。良子がスピードメーターに目をおろすと0のままエンジンは回転していなかった。
それに気づいた瞬間、車のライトは消え闇に包まれた。今まで走っていたという感覚はまったくの錯覚だったのだろうか。
「私たちどうなっちゃうの・・・」
「もう嫌よここから出して!」
そこは廃墟の建物が行く手をさえぎる元いた場所だった。恐ろしいほどの静寂と満月の月の光だけが三人の乗った車と廃墟の建物を照らし出していた。
「もうここから戻れないの・・」
聡子が悲しげに聞いてきた。
「わからないわ・・・。なにもかも・・・」
良子がまた放心状態でつぶやいた。
「ちょっと・・何、この匂い・・」
望恵がそれに気づいた。エアコンの通風孔から入ってきているようだ。
「病院の匂い・・・」
森がざわめいた。それらは三人が気づかぬうちにふらふらとおぼつかない足どりで森のいたるところから車に近づいてくる。
車の脇には先ほど聡子とにらめっこをしていた地蔵が倒れ三人を眺めている。
満月の月の光は赤く降り注ぎこれから起こる惨劇を静かに照らしていた。
「きゃーー!」
「それでその怪談話の結末はどうなったの・・・」
「私も詳しくは知らないんだけど、その三人って言うのは珍しい一卵性の三姉妹で顔は三人とも同じだったの。・・で誰か一人はその廃墟に吸い込まれるように入っちゃって、もう一人は行方不明、最後の一人は気がおかしくなってどこかの病院にいるらしいよ・・・」
「恐ゎーい。それって本当の話なの・・・」
「「嘘に決まってるでしょ。噂話、都市伝説よ」・・・第二章おわり
誰しもが一度は興味を持つ未知の世界、恐怖を感じながらその好奇心を駆り立てる。ただ空想のお話で止まらず自分自身に置き換えたらどうだろう。「次は我が身!」想像力を膨らませ、話の展開に没頭し、登場人物と一緒に物語のなかに同化していく。次回もこの部屋でお待ちしております。