第二章・種の絶滅(7)
「いったいどうなっているのよ!」
「ここはどこなの・・」
「どうでもいいからはやくもどりましょうよ!」
狭い車の中は三人の叫び声で共鳴していた。パニック状態になっていた三人だが聡子があとの二人より先に冷静を取り戻し元来た道を振り返った。そこにはさっき通ったトンネルは跡形もなく消えていた。いち早くそのことを知った聡子は震えながら涙を流した。
「もう一度戻ってさっきのトンネルからやり直せばいいのよ」
良子がそう言ってバックにレバーを入れ後ろを振り返った。そこには聡子の後姿と何もない夜の山の景色が広がっていた。
「どうなっているのよ・・・」
良子は困惑して肩の力が抜けどうすることも出来ない苦悩を感じた。その時、放心している良子の腕が横から引っ張られた。
「ちょ・・ちょっと・・・」
隣の望恵が震えながらフロントガラスを指差し遠くを見たまま良子の腕を引っ張っていた。放心状態の良子の視線はその指差す方向をゆっくり追っていった。そしてそれを目にした途端、急に我に返った。そこには良子が今さっき話した怪談話に登場した廃墟の建物が目の前にあった。
「もう一度戻りましょう!」
「どうやって戻るのよ!」
「とにかくここから逃げるのよ!」
車は勢いよくバックした。その拍子に何かにぶつかったがお構いなしに逆方向にハンドルをきり猛スピードで走り出した。三人を乗せた車以外は誰もいない真っ暗な山道を車のライトを上向きに切り替えたまま走り続けた。三人とも今起こっている出来事から逃れることに必死なのか無言で体は固まっていた。
「ねっ!この道であっているの」
望恵が前を向いたまま小声で良子に問いかけた。体はまだ硬直している。
「分からないわよ!」
良子は長く続く真っ暗な山道を目をそらすことなく少し怒り口調で答えた。どこに続いているか分からない真直ぐな山道が永遠と延びている。今はただひたすら走り続けるしかなかった。
聡子も後部座席の真ん中の位置に座りライトに照らし出される前方を見ていた。後ろを振り向くのが怖かった。三人とも前だけを見ていた。
しかし聡子は何気に横の窓の景色をゆっくり視線を変え伺った。ぎょっとして目を見開いた。もう一度即座に前を見た。そしてもう一度恐々と確かめるように横の窓を見た。前の二人は真直ぐ前を向いたままそれに気づいてはいない。
「おねぇちゃん・・・」
聡子は泣きそうな声で前の二人に問いかけた。
「何よ!どうしたの」
望恵は前を向いたまま聞き返した。
「この車動いてない・・・」・・・つづく