第二章・種の絶滅(5)
良子はハンドルを強く握り締めた。
「それからどうなったの」
望恵は怖いもの聞きたさだ。後部座席には聡子が耳をふさぎ目だけは見開いている。
「さぁ・・行方不明・・らしいよ」
良子と望恵、聡子の三人は女だけの温泉旅行で車を走らせていた。最初は流行の音楽を楽しんでいたが、ひょんなことから怪談話に変わっていた。
「それって本当なの・・」
聡子が後ろからか細く聞いてきた。
「嘘に決まってるでしょ。噂話、都市伝説よ。・・・そうなんでしょ・・」
望恵が良子に聞いた。
「怖がっていたくせに。私も聞いた話でどうか分からないわ」
車は夏の日差しが強い田舎道を走っていた。聡子が何気に窓を開けた。同時に勢いよく湿気じみた熱い風とうるさいくらいの蝉の鳴き声が車内に入ってきた。
「何やってんのよ!早く閉めなさいよ!」
望恵が怒鳴った。冷房で冷めきった車内が一挙にサウナに変わる。良子がエアコンのボリュームを強めた。
「どころでなぜ私の首が刎ねられたわけ」
望恵がいやみっぽく良子に尋ねた。
「それは話のなりゆきで・・」
「私たち三人が登場しているのは分かるけど、孝広って誰よ」
望恵が続けて尋ねた。
「さぁ・・想像上の人物・・?」
良子がごまかした。
「ねぇ・・・」
聡子がまたか細く前の二人に問いかけた。良子と望恵は話で出てきた男のことで騒いでいる。
「ねぇ・・・って・・」
前の二人はまだ気づいていない。
「ねー!ちょっとー!」
良子と望恵はようやく気づき、望恵が振り返り良子はルームミラーから聡子を窺った。
「何よ!」
聡子は窓を眺めていた。
「いまのお地蔵さん2回目よ。同じとこ走ってるんじゃない・・」
「そういえば・・」
良子がまじまじと景色を眺めた。
「だからナビ付にしたらよかったじゃない!」
「無いほうが安いっていったのあんたでしょ!」
良子と望恵がレンタカーのことで言い争いを始めた。
「あっ、また。これで3回目よ」
聡子が窓から流れる地蔵を見て言ったが二人はそれどころではない。
「あっ、また。もう何回同じとこ走ってるのよ!早く温泉は入りたいのに!」
聡子の大きな声に良子は急ブレーキをかけた。
「地図みましょ」・・・つづく