あなたの目線
合唱祭のリハーサル。
あなたは真剣にステージを見ていた。
そのさきには由希がいた。
午後になると、学年ごとの合唱リハーサルがあった。私は司会で前に綾乃と立っていた。
「しずかにしてください。」
チャイムが鳴ってもざわめいている体育館に響き渡るように、大きな声で綾乃が言う。
体育館の入り口付近には音楽科の先生が立っていた。
「起立、これから合唱祭リハーサルを始めます。礼、」
私と綾乃が口をそろえて言う。
「演奏上の注意事項、先生お願いします。」
綾乃が音楽科の先生にマイクを渡す。音楽科の先生は前やったリハーサルと同じことを言って、マイクを綾乃に返した。
「5組、怪獣のバラード。伴奏、由希さん。指揮、玲奈さん。」
私は由希を見て、昂平を見た。昂平は、由希を見ていた。
私は嫌だった。由希を見ている昂平が嫌で嫌で、そんな自分も嫌だった。
心が苦しい。
なんで私がこんなことを考えなきゃいけないの・・・。
昂平なんか、昂平なんかいなくなればいいのに。
合唱祭リハーサルが終わり、クラスに戻って放課後練習が始まる。
今日のリハーサルを生かすために、反省会をした。たったの10分だけ。
「特にないです」
はぃ?
私は少量の怒りを覚えた。
みんなはちゃんと言っているのに、なんで?
「そうじゃなくて、」
私はにこやかに言った。
昂平と目があった。今度はそらさないでみた。
「よかったと思います」
昂平は言った。私はまた、そうじゃなくなんて言いそうになったが、これ以上昂平にかかわりたくないから、次の人にまわした。
後半は先輩の練習を見に、また体育館へ向かった。
見学させてもらっている間。後ろから呼ばれた。
後ろにいるのは昂平。小声だし、気付かないふりをしていればいいだろう。
そう思い、私は無視していた。
「おいっ」
突然蹴られた。
「なに?」
私は振り向いてしまった。
「これ、俺らもやるべ。」
「うん、そうする。」
なるべく少しの会話で済ませたい。会話なんてしたくない。
そう思い、そっけない言葉で返して会話を終わらせた。
きっと私は感じ悪いだろう。周りから見ても、昂平から見ても。
それでもいい。
昂平が私に声をかけないようになるように・・・。
昂平が私を嫌いになるように・・・。
そう決意し、心の扉に大きな鎖をかけた。