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王子ラングレッサが“昇格”して三年。
二軍世界はかつてない繁栄を迎えていた。
育成制度改革。
感情制御訓練。
断罪イベントの高度戦術化。
すべては、レディナの手腕によるものだった。
人は彼女をこう呼ぶ。
育成の悪役令嬢
黄色と黒の縦じまドレスは、もはや象徴だった。
ある日。
天が裂ける。
《特別昇格枠を発表します》
城中が凍る。
ヒロインが震える。
「まさか……」
光が差し込む。
その名が響く。
《レディナ・フォン・グランツ》
静寂。
レディナはゆっくりと目を閉じた。
「……ついに来ましたのね」
リースが叫ぶ。
「行かないでください!」
レディナは微笑む。
「これは“終わり”ではありませんわ。
二軍で学んだ者が、一軍に逆輸入されるのですもの」
光の中へ。
意識が遠のく。
そして――
目を開けると。
そこは巨大なスタジアム。
轟く歓声。
空気の震え。
目の前には、王子ラングレッサ。
だが姿が違う。
鎧ではない。
縦じまの装束。
背に刻まれた番号。
王子は笑う。
「ようこそ、一軍へ」
レディナは周囲を見渡す。
巨大スクリーンに映る文字。
HANSHIN TIGERS
胸が締め付けられる。
「ああ……ここが……」
それは夢で何度も見た光景。
現実よりも鮮烈な、黄色と黒の海。
彼女のドレスが光に変わる。
縦じまは、より洗練された衣装へと変化する。
「役割は何ですの?」
王子は真剣な顔で言う。
「改革者だ」
「……は?」
「この球団は強い。だが波がある。
二軍で君が築いた“負けても立て直す制度”が必要だ」
レディナは目を細める。
「つまりわたくしは――」
「一軍改革特別補強」
会場アナウンスが響く。
《新戦力、レディナ!》
歓声が爆発する。
黄色と黒が揺れる。
彼女の目に涙が浮かぶ。
「……やっと会えましたわね」
その年。
不思議なことが起きた。
連敗しても崩れない。
不調でも焦らない。
若手が伸びる。
誰かが言った。
「まるで二軍が強くなったみたいだ」
王子が笑う。
「逆だ。二軍の精神が来たのだ」
レディナはスタンドを見上げる。
どれだけ負けても、応援は止まらない。
どれだけ勝っても、油断はしない。
彼女は静かに呟く。
「優勝とは、結果ではなく――続けること」
王子が頷く。
「ならば我々は、何度でも優勝できるな」
そして秋。
最後の試合。
巨大スクリーンに輝く文字。
優勝
歓声。涙。抱擁。
レディナは空を見上げる。
遠く、あの二軍世界が輝いている気がした。
「ありがとう」
それは誰に向けた言葉か。
二軍世界か。
王子か。
それとも――
阪神タイガース そのものか。
かくして物語は終わる。
悪役令嬢は断罪されず、
王子は戦力外にならず、
世界は消えず、
ただ、挑み続ける場所になった。
黄色と黒は、恐怖の色ではない。
希望の縦じまだ。
完結。




