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虎党悪役令嬢になる  作者: 南蛇井


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1/6

1

悪役令嬢レディナが朝、目を覚まして最初に放った言葉は――


「……阪神タイガースは?」


その意味を、誰も理解できなかった。


豪奢な天蓋付きの寝台。差し込む朝日。侍女たちは凍りつく。

強気で傲慢、傍若無人。社交界を震え上がらせてきたあのレディナが、青ざめた顔で虚空を見つめている。


「ここは……どこですの? 甲子園は? 試合は……?」


そして彼女は、ぽつりと言った。


「この世界には……阪神タイガースが、ない……?」


次の瞬間、悪役令嬢は泣き崩れた。


誰よりも誇り高く、決して涙を見せなかったレディナが、子どものように。


王子ラングレッサは立ち上がる。


「レディナを……元に戻す。たとえ“阪神タイガース”とやらが幻でも、必ず見つけ出す」


ヒロイン、リースも頷いた。

すべてはレディナを立ち直らせ、そして本来訪れるはずの“断罪”を遂行するために。


しかし――


王立図書館に“阪神タイガース”の記述はなし。

古代魔術書にも、禁書庫にも、召喚儀式の記録にも、それらしき単語は存在しない。


そもそもそれは何なのか。

国か。神か。魔物か。秘密結社か。


誰にも分からないまま、時だけが過ぎた。


ある日の舞踏会。


レディナは現れた。


鮮烈な、黄色と黒の縦じまのドレスを身にまとって。


まるで警告色。

まるで誇りの旗。


「その配色は……戦旗か?」と王子が問うと、


レディナは少しだけ目を伏せ、言った。


「……分かりませんわ。でも、この色を纏うと、少しだけ心が落ち着くのです」


その姿はかつての傲慢さとは違った。

何かを失い、それでも何かを守ろうとする、切実な強さがあった。


“阪神タイガース”とは何なのか。


それはレディナの前世の記憶なのか。

異世界からの断片なのか。

それとも、勝利と敗北を繰り返しながらも愛され続ける、何かの象徴なのか。


結局、最後までそれが見つかることはなかった。


だが――


黄色と黒のドレスを纏ったレディナは、以前よりも少しだけ優しくなっていた。


そして誰も知らない。


彼女が夜、星を見上げて小さく呟いていることを。


「……今年こそ、優勝できますように」


意味は分からない。

だがその祈りだけは、本物だった。

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