商業の街ハンデル 後編
パーティー結成から、早くも1か月が経とうとしていた。
本来なら、もう少し早い段階でこの街を発つつもりだったが、自分が思っている以上にこの世界が様変わりしていた。
だから、二人にも用事があると話し、暫くはここに滞在することにしていたのだ。
なんせ、討伐依頼を請け負うたびに、次々と知らない魔物と出くわすのだ。
勇者時代、それなりに色々な魔物を葬って来たと思っている。
それこそ、辺境の街に出るような、比較的強くないものから、国が一致団結してようやく倒せる程のものまで幅広くだ。
それなのに、ちっとも見た事がないと言うのは少しおかしいと思う。
だから、この1ヶ月間は、二人と依頼を受けながら、空いた時間には、街の公共図書館に籠もり、あらゆる資料を漁った。
古い魔物図鑑から、最近の物まで、地理誌や、幾つかの伝承録――。
古めかしい紙の匂いと、所々手の届かないところにある窓から陽の光が優しく差し込むなか、様々なものに目を通したが、どれも知識が一致しないところが多々ある。
特に、魔物だ……。
前々から違和感は感じていたが、図鑑を捲るたびに知らない魔物ばかりが記されている。
むしろ、昔戦った魔物と同系統だと思われるものの方が記述が少なかった。
仮に魔物は変化しやすい性質を持っているのだとしても、
たったの200年でここまで異なるのは異常だとしか思えない…。
そうして、考察もしてみた。
一つ目は、そもそも世界が違うと言うことだ。
ただ、これに関しては知っている地名もあるので、この線はないとほぼ確実と言えるだろう。
二つ目は、この200年の間に、何か大きな転換点があったのでは、と言う説だ。
これも、ここまでに読み漁って来た資料には、欠片も出てこなかった事を鑑みると、そんなものははなから無かったか、もしくは意図的に消されているか……。
どちらにせよ、現状知る手段が無いので何とも言えない。
三つ目は、そもそも200年後の世界では無いと言うものだ。
二個目と違うのは、200年間の間にあった歴史を隠しているのか、そもそも隠された期間があるのかと言う点だ。
ただ、もし仮にこれが正解だとしても、一体何のために隠す必要があるのか分からない。
長い時間をかけて調べまわったが、結局のところ分かったことと言えば、今は昔とは大分変化したと言うことだけだった。
知りたかったことや、逆に新たに出て来た疑問だとか、収穫はあったものの、正直に言ってあまりいい成果はなかった。
それどころかむひろ、知れば知るほど頭がこんがらがって、息苦しくなるような物だった。
しかし、今やっておきたかったことはあらかた片付けられたので、そろそろ二人にも次の街へと出れる旨を話しておこう。
次は何処へ行こうか。
独り妄想を膨らませる。
ハンデルから近いところだと、魔術都市コンツェプトや海岸都市ヴァッサー辺りだろうか。
個人的にはコンツェプトに興味があるが、二人はどうだろうか……。
ただ、ヴァッサーの食文化にも興味がある…。
何でも魚を生食する文化があるらしい。
何とも有り得ない話だが絶品だと言うのだ。
早く二人に相談したいな。
そうして今日は終わり、翌日になり、二人と会う日がまたやって来た。
足早にギルドへと向かう。
勢いよく、中へと入り二人がいないかと見渡す。
奥の方にある机へと向かい合って座り、何か雑談している彼らを見つけた。
俺は止まることなく、そこへと行き、彼らに声を掛ける。
「クリベント!ソフィー!、おはよう。」
すると彼らも答えてくれた、
「おぉ、デメルング。
おはよう!」
「デメルング、おはよう。」
そんな挨拶を交わした後、ひとまず彼らの話に参加しようとしたところ、クリベントに声を掛けられた。
「デメルング、なんか今日はテンション高めだな。
何かいいことでもあったか?」
こいつ、なかなか勘がいいなぁ。
「あぁ、ちょうど言おうと思ってたんだが、ようやくこっちでやりたかった事が全部片付いたんだ。
だから、二人が良かったらそろそろこの街を出ないか?」
提案をしてみる…。
二人は少しの間顔を見合わせ後、こちらに向き直り、ソフィーが話し出す。
「デメルング、そう言う事なら私達はいつでも準備できてるわよ!」
その返事に胸が熱くなる。
「なら早速、次に行く街を決めないか?」
この提案にも、まるで始めから決まりきっていたように、ソフィーは答えた。
「コンツェプトに行きましょう!」
素晴らしい答えだな……、と思う反面、ここまでクリベントがしゃべっていないので、念の為彼にも聞いてみる。
「クリベントはこれで良いか?」
彼は言う。
「あぁ、もちろん。
元々ソフィーとはデメルングが動けるようになったら何処に行くかは話し合ってたんだ。
今回は、ソフィーに譲るよ。」
おぉ、何だろう、クリベントが何処か大人に見えてしまう。
いつもならこう言うの絶対譲らなそうなのに……。
「なら出発はいつにする?」
するとまたもや、あらかじめ決めていたように、「3日後の朝にしましょう」と彼女が間髪入れづにはっきりと答えた。
そう言えばソフィーは術師だ。
だからコンツェプトに行けるとなってテンションが上がっているのかもしれない。
彼女が提案した日程に、俺はもちろん、クリベントも特に問題はないと言うので、そこも決まりだ。
早く三人で次の街へと行きたいな。
そんなふうに心が躍る。
ただ、この街を出るならアプバウには一言声を掛けておかないと。
彼には何だかんだお世話になったから。
そう思い、解体をしている施設の方へと向かう。
中は相変わらず賑やかで、何処かざらつく血の匂いがそこら中に染み付いている。
アプバウを探し、近づく。
「おっ、デメルングじゃねぇか。
何だ?またなんか魔物を解体して来たのか?
まだ昼だぞ?
流石に早すぎるぞ…。」
彼は相変わらずだ。
そんな彼に、俺はこの街を出る旨を伝えた。
「アプバウ、その事なんだが、俺らは三日後にこの街を出ることにしたんだ。
また何処かで戻ってくるかもしんねぇけど、多分無いと思うから挨拶に来たんだ。」
すると彼は言う。
「おいおい、そりゃ困っちまうぜ。
お前がいなくなったら誰が魔石の取り出しをやってくれるんだよ。」
彼にとっちゃ俺は魔石を取り出す機械だったらしい。
「なんてなぁ。
冗談だぜ冗談。
でも寂しくなるなぁ。
お前さんが毎回魔物を持ってくるたびに驚く事ができなくなっちまう。
ただまぁ、他所に行っても元気でな!
俺はいつでも待ってるからな!」
彼はそんなふうに俺たちを送り出してくれた。
有難い話だ。
その後、俺たちは今まで通りに三日を過ごし、あっという間に街を立つ時間へとなってしまった。
一ヶ月しか居なかったのに、何だか故郷を離れた時と同じくらい心が寂しくなってしまう。
そんな名残惜しさを持ちつつ、初めてハンデルに入った門とは真逆の所へとやって来た。
衛兵にギルドカードを提示して、難なく街を出る。
初めとは違い今度は三人で。
コンツェプトはどんな場所なんだろうと言う昂りと、ハンデルを出なきゃいけないと言う寂しさを胸に、俺は新しい一歩を踏み出した。
処女作ゆえ至らぬ点も多々ありましたが、温かく見守ってくださった皆様のおかげで、当初の予定通り全8話を完結させることができました。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
現在、次回作の構想や設定を練っているところです。また新しい物語をお届けできるよう準備しますので、楽しみに待っていただけると嬉しいです。




