商業の街ハンデル 中編V
道を、歩いている。
数時間前と同じ様に、緑で覆われた、優しい道だ。
けれども、来る時とは違うことが、いくつかある。
その中でも一番大きいだろうものは、新しい“仲間“だ。
クリベントとソフィー。
彼らとは、パーティーを組めることになった。
「パーティーを組まないか?」そう聞かれた瞬間が、余韻となってなかなか忘れられなかった。
グレートヒルシェットを討伐し、解体の良さを説きながら、彼らと笑い合った時間は最高だった。
本当なら、それは今日限りのもので、もう味わえないはずのものだったのに、今では違う。
それはいつでも感じることができるものになった。
そんなふうに心で、少し恥ずかしい様なことを呟きながら、彼らとケラケラ笑い合い歩いていると、空はすっかり橙色に染まっていた。
それに腹も減っていたので、何を食べるかなんてことも話していた。
しかし、まずはギルドに報告をしに行かなければ。
そうして、遂にギルドまで帰ってこられた。
受付まで行き、討伐の証として角を出しながら言った。「グレートヒルシェット討伐の依頼は上手く行ったぜ。」
「えぇ!?、今回もこんなに早く討伐してきたんですか?
前とは違ってパーティー組むこと前提なんですよ?
これ。」
今回も彼女は驚いた様な顔で反応していたが、俺たちのボロボロの姿と持ち出された角を見たら納得いったらしい。
穏やかながら、どこか心配する様な顔でこう返事してくれた。
「あなた達の様子見ると、嘘言ってるわけじゃ無さそうね。
依頼の完了を確認しました。今回もお疲れ様でした。
次も期待してるよ!」
そして、報酬として金貨1枚と銀貨5枚をくれた。
これだけなら相変わらず赤字だ。
クリベントとソフィーも、正直納得いっていない顔をしていたが、仕方ないと受け入れていた。
そして遂にお待ちかねの、素材売買の時間がやってきた。
今回は、3人だけで解体所へと向かった。
そこは相変わらず大きくて、血の匂いだったり、解体中怒号だったりが飛び交う賑やかな場所だった。
空気が鉄臭く、なんだか喉の奥がざらつく感じだ。
キョロキョロと辺りを見渡し、アプバウを探す。
エーベルでさえ金貨1枚相当だったんだ。
グレートヒルシェットならもっと言い値になるはず。
それに解体も丁寧にしたから、絶対に稼げるはず。
するとそんな気持ちが顔に出ていたのか、ソフィーに「鼻の下が伸びてるわよ」なんて言われてしまった。
いかんいかん、抑えなければ……。
すると、「おぉ!デメルング!」と元気な声が何処からか聞こえてきた。
アプバウの声がしたので、今度は入念に辺りを見渡すと、一際大きな体をした彼がのっそのっそとこちらに走って向かってきていた。
そしてようやく着いたかと思うと、膝に手をつき、「ぜぇー、ぜぇー」吐息を切らし、思い切り深呼吸を始めた。
数秒時間が経ってから、彼はようやく話し出した。
「ここにいるってことは、もちろん解体した魔物を売りにきたんだろ?
何討伐して来たかはしらねぇけどよ、そんなこと置いといて早く出してくれ。」
彼は俺を焦らす様に話していた。
そんな彼の期待に応える様に、俺たちは解体済みのグレートヒルシェットを目の前に広げる。
今回も内蔵は傷めずに持ってこられる自信がなかったので置いて来てしまった。
でも、骨や肉、残っている角3本に皮、そしてエーベルには見当たらなかった拳大の、綺麗な紫色をした魔石は持ってくることが出来た。
「おぉ!こりゃすげぇ。
今回もえらい綺麗に解体してあるじゃねぇか。
しかもこの石、魔石だぞ!」
感嘆したような声をあげている。
「良くこんな綺麗に取り出せたなぁ。
俺たちでもコイツの取り出しはかなり難航するんだが…。」
俺は少し不思議に思い、何故魔石の取り出しが難しいのか聞いてみた。
すると彼は続けて教えてくれた。
「魔石っつぅもんは、高純度の魔力が結晶化したものなんだ。
ここまではわかるか?」
流石にそれくらいわかる。
クリベントやソフィーだってそりゃそうだろうという顔をしている。
「ただ、魔力は普通の金属にはちと強すぎるんだ。
だから、一般的な器具で取り出そうとしてもすぐに器具の方がボロボロになっちまう。
勿論、それ専用の器具だったり、専門家だったりが居るんだが、金がかかっちまって仕方がねぇ。
だから、いつもなら何個か器具を犠牲にするしかねぇんだ。」
話を聞いて納得した。
だって、俺の剣もさっきの戦いで魔力を流したせいでボロボロだからだ。
一応、専用の器具についても聞いてみた。
「その専用の器具ってのは何で出来てるものなんだ?」
すると彼も答える。
「確か、メリスエル合金って言う素材で出来た物だったはずだ。」
メリスエル合金、と言うものがどんなものなのか、なんとなく予想はつくが、聞いたことない名前なので、また調べておくことにする。
そこから暫くはみんなで世間話なんかをしていたが、ようやく査定が終わり、アプバウから買い取り額をもらう。
「今回のは魔石付きで金貨7枚ってところだな!
なんせ魔石だぞ。
これだけで金貨4枚は出せる。」
「金貨7枚?」
ソフィーやクリベントに至っては夢なんじゃないかと疑い始める始末だ。
エーベルよりは高値になると確信していたが、まさかここまでだとは思いもしなかった。
今後、もっと強い魔物を売ったら一体どれほどの金になるのだろうか……。
想像もつかない。
そんなこんなで現実味のないまま、俺たちは施設を後にした。
日はすっかり落ち、また眠らない夜がやって来ていた。
取り敢えず、パーティー結成と依頼初達成を祝うことにし、それに相応しい場所を探して街を練り歩いていた。
「金貨が7…枚…。」
ソフィーがうわごとのようにぶつぶつと呟いている。
「こんだけあれば、あれが買えるだろ、後、剣と防具と、……。」
クリベントだって訳のわからないことを言っている。
確かに、初の依頼で、いきなりこれだけ稼げてしまうとこの先金銭感覚が狂ってしまいそうで恐ろしい。
そんな思いを募らせながら、かれこれ30分以上は歩いただろう。
二人の様子も落ち着き始め、ようやく会話ができる程度にはなって来た。
「それにしてもデメルング凄いわね。
解体屋でも手こずるような魔石の取り出しをあんな風に綺麗にやっちゃうんだもの。
それも手で。
……もしかして、魔力を応用した?」
さすが術師だ。
勘がいい、と言うか筋がいい。
「よくわかったな。
あれは手の周りに薄い魔力の層を纏わせてるんだ。
初めは不安定で形を保つのも苦労するけど、ちゃんと訓練すればソフィーにも使えるようになるよ。」
すると彼女は嬉しそうに、期待に満ちた目をキラキラと輝かせていた。
すると今度はクリベントが話し出す。
「それにしても、魔法技術も凄いんだろうけど、剣の腕もなかなかじゃなかったか?」
こちらも戦士としては一級品だ。
なんせE級と言う称号には不釣り合いなほどに、熟した戦士だ。
まだまだ伸び代はあるが、今のままでもそれなりに通用する。
「そうか?
確かに村では一番強かったけど、お前からみてもそう感じるのか……。
今度、一回模擬戦しようぜ。」
「模擬戦か?
勿論いいぜ。
手加減は無しだからな!」
割と無茶振りをしたつもりだったが、快い返事をもらえて何よりだ。
楽しくお話をしていたら、また一番と言ってもいい程大きな食堂へと辿り着いた。
名前は“昼夜の憩い場“。
俺たちは、ごくっと生唾を飲み込み、元気に中へと入っていった。
物凄い熱気だ。
それにそこらじゅうから話し声が聞こえて来て、がやがやとしている。
料理の匂いも、するにはするが、混ざり合いすぎて何が何だか分からない。
三人で唖然としていると、ウェイトレスがこちらへとやって来て、空いている席へと案内してくれた。
すると、「お呼びの際はこちらのボタンでお願いします。」と一言だけ説明をし、どこかへと言ってしまった。
取り敢えず、何を頼むかを話し合う。
わいわいと相談し合い、最終的に、モイ揚げとエーベルの丸焼き、チェズパンなどなど、四品を頼むことに決まった。
そして、本当にこんなもので呼び出せるのかと言う疑いを持ちながらも、ボタンを押そうとしたところであることに気づいた。
クリベントが羨ましそうな目でこちらを見つめている。
ソフィーはそんなクリベントに呆れた様子だが、当の本人は、とにかく目を輝かせている。
なんだか押しずらい…。
「良かったら、これ押すか?」
そういい、彼に譲ると、首をぶんぶん振りながら受け取り、満足げに、それを押した。
すると瞬く間に先ほどとは違うウェイトレスがやって来て、注文をとり、また何処かへと消えていった。
また少しすると、ついに料理が運ばれて来た。
モイ揚げはモイを細長く切り刻み、油で揚げた物だった。
ゴクリと唾を飲み、指でその中の一本を摘み、口へと運ぶ。
そして、それを半分ほど食べた。
サクリッ。
熱!
サクサクとした衣の中からは、口の中を攻撃してるんじゃないかと錯覚するほどに熱されたモイが、現れた。
しかし、その熱さが癖になる。
さらに、振り掛けられているであろう塩が、それを加速させる。
ちょっぴり塩っぱく、熱いそれは、一度手を出したら止まらなくなってしまうほどに美味しかった。
モイは勿論、指についた油と塩を舐めても美味しいのはもう反則だろう。
二人、熱い、うまい、と言いながら凄い勢いで食べ勧めている。
そこにあったのはもはや、新規結成したパーティーではなく、モイ揚げを奪い合う戦場に足を踏み出した、戦士たちであった。
さらに、程なくしてエーベルの丸焼きもやって来た。
丸焼きという割に、少し大きめのブロック肉をまんま焼いたという感じだったが、匂いはとても良かった。
なんの調味料だか分からないが、なんだかとても、心躍る香りだ。
こちらは三人で均等に分け、各々で頬張った。
肉汁が口の中に広がる!
ほんのりと甘い油、少しピリッとした辛味、そして何より、歯応えが良く、いかにも“肉“と言う名前が似合う物だった。
美味すぎる……。
あんなにあった丸焼きは、気がつけばもう無くなっていた。
金銭面を意識しなきゃいけないのはわかっているが、恐る恐る二人にもう一つ頼んでいいか聞いてみたところ、二つ返事で了解を貰えた。
他にもチェズパンなども運ばれて来たが、先の二つの衝撃には勝てなかった。
なんだか、確かに美味しいな、くらいのものだった。
そして、三人揃って「パーティー結成おめでとう!」
なんてことを言いながら、初めての食事は幕を閉じた。
その後、二人はすでに泊まっている宿が有るらしいので、明日はギルドに何時集まろうか、なんで会話をして、今日は別れた。
一人で、静かに昨日の宿を目指している時、色々なことを考えていた。
自分の知らない魔物、メリスエル合金、新しい仲間……。
特に、知らない魔物は優先して調べなきゃいけない。
暫くは、討伐依頼で忙しくするだろうから、何処かでまた休暇を取らなければ……。
そうして、忙しかった一日は、あっという間に終わっていった。
そういえばですね、私は大学受験が一応ひと段落しました。合格発表が未だなので、なんともという感じですが、少しながら読んでいただけてる方々のおかげで頑張ってくることができました。
もし少しでも続きを読みたいと思ったら、ブックマークなどをして頂けると嬉しいです。
お読みいただきありがとうございます。次回もお楽しみにお待ち下さい。




