商業の街ハンデル 中編II
俺は、彼女に教えてもらった「ギルド」への所属をするために、その施設を探し回っていた。
そもそも、200年前にはギルドなんてものは存在しなかった。
魔物の脅威から身を守りたいなら、国や市の運営する騎士団にでも所属をする。
それが当たり前の世界だった。
だからこそ、「勇者」と言う存在は異質だったし、その勇者を中心にしたパーティーが公的に世界を闊歩していたこと自体が、異常なものだった。
それに、素人が下手に相手をしてしまえば、簡単に殺されてしまう様な魔物がそこら辺に生息している様な環境だった気がする。
そんな俺からしてみれば「ギルド」と言うシステムの方が異常だと思ってしまう。
きっとこの200年と言う時間の中で、大きく変わったんだろう。
ならば、俺もこの時代に自分を合わせていかなければいけない。
驚くのも、いい加減にしよう。
だってそうしている自分の方が、今の世界ではよほど異物なのだから。
頭の中で色々考えているうちに、気付けばまた大通りまで戻ってきていた様だ。
この通りを歩いていれば、そのうちギルドも見つかるだろう。
そう思い至った俺は、ひとまず街の中心に向かって歩くことにした。
それにしても、相変わらず活気がすごい。
華やかな服に着飾った女性や、明らかに高級そうな装備をつけている冒険者まで、多彩だ。
すると、そんな中から、一際目立つ女性の声があたりに響く。
「キャー!そのひったくりを捕まえてぇ!」
辺りを見渡すと、その人が言っているであろう人物が直ぐに目に入る。
全体的に黒で統一された服に身を包み、鼻まで覆い隠す様な布を付けている。
何よりその歩行に目がいく。
ごった返した人々の間を、するり、するりと言う様に、まるでその間を縫う様に移動している。
それにこれだけ人がいれば、周囲にいる冒険者も、手も足も出せないだろう。
策士だ。
それでも、俺は迷わず動き出す。
確実にその男が通りたがるであろうルートの側まで、人々の歩幅を読み、滑らかに移動しタイミングを見計らう。
そして、今だ!、と言うタイミングで右足を、ひったくりの足に引っ掛ける様に差し出す。
すると男は、間抜けに両手を前に出しながら、情けない声をあげてずっこけた。
ごんっ。
思わず眉をひそめてしまいそうな鈍い音が響いた。
よく見ると、見事に頭からいっている。
痛そうだ……。
でもこいつは悪人だ。
痛そうなどと同情してやるには値しないだろう。
そして直ぐに周りにいた数人の冒険者がこちらへと歩み寄ってくる。
そのうちの2人は男に乗っかり動けない様に拘束し始めた。
残っていた人物も、おそらく自警団を呼びにいったのだろう。
そんな中、俺はと言うと、犯人が落とした鞄を拾い、ぶちまけてしまった中身を拾い上げ、被害者の女性へと渡してその場を離れた。
それからまた少し歩いた。
一向にそれらしいものは見つけられなかったが、ついに冒険者が異様に出入りをしている建物を見つけた。
きっとあれがギルドなんだろう。
そう思い立った俺は小走りでその中へと入っていった。
扉を開けると、いかにもと言う雰囲気が漂っている。
中にはたくさんの冒険者がおり、どの依頼をこなすか、パーティーに入らないか、報酬はどうすか、なんて話し声が聞こえてくる。
中には、さっきのひったくり事件のことを話している声も聞こえた。
「さっきのひったくり、えらい転び方をして捕まり方したらしいぞ。」
「そうなの?たまたま転けただけじゃないの?」
そんな会話だった。
そんなふうに声を聞きながら辺りを見渡すと、直ぐに受付であろう場所が見つかった。
早速俺はそこまで行き、受付をしている1人の女性に話しかけた。
「ここって冒険者ギルドであってる?登録したいんだけど……。」
彼女は元気の籠った声で答えた。
「冒険者ギルドであってますよ!冒険者登録ですね、登録料として、銀貨5枚を頂くんですけどいいですか?」
俺はその言葉を聞き、「なんだと!?」と思ってしまった。
まさかこんな所でも寂しい財布の身を切らなければいけないとは。
世の中世知辛い。
でも生活のためだ、仕方がない。
「分かった。銀貨5枚、これでいいか?」
すると彼女は言う。
「はい、確かに銀貨5枚、受け取りました。では少し準備があるので待ってて下さい。」
そういうと、彼女はカウンターの裏にある別室へと入っていった。
俺は財布の中を見て小さなため息をついた。
暫くしないうちに、また彼女が戻ってくる。
「準備ができたので、今から登録を始めますね!」
そういうと、一枚の紙とペンを差し出してきた。
項目を見ると、名前だったり年齢、希望職業やスキルの有無、大体はこんな事が書いてあった。
基本的な事は分かったが、「スキル」と言うまた謎が出てきてしまった。
一体それがなんなのか、凄く気になるが、今は我慢する。
希望職業は、取り敢えず剣士にしておいた。
スキルの無有についてはよくわからないので、一先ず無しにした。
そうして一通り書き終えた紙を受付嬢に渡すと、今度は個室へと通された。
扉を通ると、そこには奇妙な装置が置かれていた。
中央には淡く光っている水晶が浮かび、その周囲には金属でできた円環が幾重にも重なっている。
じっと見ていると、彼女が説明し出した。
「今からこちらで、スキルの有無や魔力量などをデータかしていきます。」
そこで思わず、俺は聞いてしまった。
「その……、”スキル”とは何なんだ?」
すると彼女は、少し驚いた様な顔で話し出した。
「スキルと言うのは、生まれつき持っている才能みたいな物です。なんでも170年程前から急にスキル持ちが生まれる様になったみたいですよ!」
その話を聞いて、俺は少しだけ自分がスキルを持っているのか気になってしまった。
なにせ、前世は剣しか芸が無かったんだ。
魔法以外にも、色々な才能に憧れたって良いだろう。
ふんすっ。
鼻息を鳴らして、早速水晶玉に手をかざす。
するとゴウンゴウンと言う音を立てながら、円環が回転し出した。
中心の水晶の輝きが少しずつ大きくなっていく。
淡白な白色は、少しずつ赤みを帯び始め、次第に紫色へと変化し、最後には真っ黒な物へと変化していった。
その後10数秒程手をかざしていたが、彼女からもうやめて良いと指示があったので、ゆっくりとその場を離れる。
少しだけ期待をしながら、結果を待っていたが、あまり良い顔をしていない。
どうやら、何か不具合でもあったのだろう。
「どうかしたのか?」
声をかける。
「いや、それが真っ黒になるなんてこの支部では初めてでして……。時々耳にする事はあったんですが、まさか自分が担当した方から出るとは思ってなかったので、少し呆然としてしまいました。」
どうやら真っ黒は稀な事らしい。
「魔力量はトップクラスですね!まず真っ黒なんて見られませんよ…。それとスキルの方ですが、”アブマフング”と言うものがあるみたいですね。こちらに関しては文献が全く無いので、どういったものと言う判別ができません。申し訳ない……。」
一応俺にもスキルはあったらしい……が、どうやらどんなものなのかまではよく分からない様だ。
まぁ、それならそれで仕方がない。
その後はまた彼女についていき、元の受付場所まで戻っていった。
そして遂に、身分証とも言えるカードが発行された。
「こちらが、デメルングさんのギルドカードとなります。まず、ギルドではランク制度を採用しております。
下から、E→D→C→B→A→Sとなっており、依頼を一定数こなした上で、試験を受けると上がる様になっています。
デメルングさんの場合は数値だけ見れば、直ぐにでもB級やA級でも良いんですが、経験をして欲しいと言う事で、今回はD級からとさせていただきました。
また、カードは無くすとまた1からになってしまうので、大切にして下さいね♪。
ではこれからは冒険者として、よろしくお願いします。」
彼女は長々と説明をした後、満足そうにそう言い、俺は晴れて冒険者へとなる事ができた。
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