物語の始まり
皆さん初めまして、もるもると言います。
短い間にはなりますが、是非楽しんでいただけると幸いです。
「おぎゃぁ、おぎゃぁ」
元気な赤子が、この世に生を持ち、今産まれ落ちた。
まるでその誕生を世界に知らしめる様に、大きな、大きな声で泣き続ける。
母親は汗でびっしょりと濡れ、そんな女性の手を、少し不安そうな顔をして握りしめる父親がいた。
ふたりは、その小さな命が誕生した時、揃いも揃って安心した様な、少し腑抜けた様な笑みを浮かべ、少しだけ涙ぐんでいた。
これが現代における、勇者シュトレッケの転生が完了した瞬間であった。
しかし、彼もまた、記憶という記憶の全てが抜け落ちており、もはやただの赤子と大差はなかった。
それでも、「デメルング」と名付けられたその赤子はすくすくと育っていった。
ただ、やはり元勇者。
その成長スピードは恐ろしいものだった。
ものの6歳で魔法の才が開花し、10を超える時には村一番の剣術使いになっていた。
そもそも「魔法」というものに目覚めるのはおよそ10〜15歳間だと言われている。
そしてこれを過ぎても扱えないものは、生涯行使することができない。
というのが「今」の定説だ。
しかし、「今」と言った様に、昔は少し違った。
かつてはどんな者でも、努力次第で魔法を扱うこともできた。
それこそ、シュトレッケ自身もかつては魔法の才はからっきしであった。
周囲の子供達が一人、また一人と魔法を扱う様になってく中、まだ幼かったシュトレッケはいつか自分にも、と希望を抱いていたが、ついにはその未来が訪れることはなかった。
それでも、彼は人一倍努力した。
どんな時でも鍛錬を怠ることなく、魔王討伐の旅の最中でも、ファクテンやヴィーメ、アビエンテ達に教えを乞いていた。
その努力もあってか、生活をする上で少しだけ便利になる様なものは習得することができた。
結局「昔」は曲がりなりにも、直向きに続ければ、なんとか簡単な魔法くらいは使える様になったのだ。
でも、デメルングはかつてのシュトレッケとは違った。
魔法の才を持ち、剣の才も持ち合わせていた。
前世の記憶はまだ思い出せてはいなかった。
それでも、どれだけの才を併せ持とうと、勇者だった頃の様に努力をした。
それは、「彼」の魂に刻まれた、本質的の様なものであった。
そこから更に数年の月日が過ぎていった。
デメルングは15歳となり、成人した。
この頃には、彼の魔法は賢者の再来と呼ばれる程に卓越したものへとなっていた。
そして、それに負けじと、剣術では剣聖などと二つ名がつく程であった。
更にこの年、彼に大きな転機が訪れる。
遂に、かつての記憶を取り戻したのだ。
前々からうっすらと、それっぽいものが頭の中にある事は自覚していた。
それでも、そんなはずはないと、ありえないと割り切っていた。
しかし、まるで辻褄でも合わせる様に、記憶がフラッシュバックしたのだ。
「転生」を施したある天才は、この瞬間、もしかしたら元の人格を侵食してしまうのでは、と危惧していた。
でも、デメルングはシュトレッケの記憶を思い出しても、勇者に変貌する事はなく、一人の青年として少しだけ達観した性格になっただけであった。
彼はあるものも思い出していた。
それは「魔王」との約束だ。
そいつは強かった。
戦いは数日に及び、仲間は皆疲弊し切っていた。
誰一人欠けても勝てる様な相手ではなかった。
伝説の剣を持っても、何度も殺されかける様な、絶望の権化とでも言える様な人物であった。
戦いを通し、シュトレッケはゲジヌングも、必死なのだとひしひしと感じた。
お互いが譲れないものを背負い、死ぬ気でその信念を貫く為に殺し合う。
そんな戦いだった。
そして遂に決着がつく。
シュトレッケの剣が、ゲジヌングの胸に突き立ったのだ。
しかし魔王は少しだけ、微笑んでいる様に見えた。
彼は言う。
「お前の様な人間に殺されるなら、悔いはない。と言いたいが、一つだけあるとすれば、残された魔族達が不安だ。」
続けて声が聞こえる。
「勇者よ、一つだけ約束をしてくれないか?」
これがデメルングの思い出したものであった。
約束は思い出した。
けれどその中身までは知ることができなかった。
それでも彼は思う。
かつて守った世界を見てまわりたいと。
魔王との約束を果たしたいと。
行き先はかつての決戦の地、ゲリュブデ。
そうして17になると同時に、彼は家を出て、世界を見て回る旅へと足を踏み出した。
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次回も楽しみにしていてください。




