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ーー薄暗い部屋の中、目覚まし時計の電子音で目を覚ます。
カーテンの隙間から漏れる光がまぶしく、目がかすむ。
頭に焼きついて離れない、昨夜の光景。
「......夢、じゃないよね」
体に伝わった振動、耳鳴りのように残る金属音、まだ少し痛む足の傷が昨夜の出来事を現実だと突きつける。
クローゼットにかけた制服の袖を握ると、まだ土煙の匂いが残っているような気がした。
あの後、アカリがすぐに警察と救急を呼んでくれた。
ミナトはアカリが持っていた《回復式》の甲斐もあってか、軽傷で済んだらしい。
救急隊に運ばれていく姿をみて、涙が出たことを思い出す。
まだ眠い目を擦りながら、洗面台に向かい歯を磨き、顔を洗う。
パジャマを脱ぎ、制服に袖を通し、鞄を肩に掛けて部屋を出る。
寮の廊下はすでに人の気配があり、すれ違う同じ寮の子が「大丈夫だった?」と心配そうに声をかけてくる。
「うん、なんとかね...」
と短く答えるとそれ以上追及されることはなかった。
階下の食堂に降りると、朝のざわめきが耳に届く。
パンの焼ける匂いと、トレーを運ぶ音、取り留めのない会話。
誰もが普段通りの日常を始めている。
胸の奥に、昨夜との落差が違和感として残る。
パンと牛乳だけをトレーに乗せて座れそうな席を探しているとアカリとミナトの姿を見つけた。
アカリはご飯を山盛りによそい、味噌汁と焼き魚を並べてすでにがっつり食べ始めている。
その隣でミナトはトレーの上に小さなサラダだけを置き、「よく太らないわね...」と言い、静かにフォークを動かしていた。
「.....ミナト、もう大丈夫なの?」
私がそう尋ねると、ミナトは淡々とサラダを口に運びながら小さく答える。
「問題ないよ、昨日の傷も大したことはなかったし」
「ほら!!元気そうでしょ!!」
アカリがご飯を頬張りながら、勢いよく話に割り込んでくる。
「私の《回復式》が効いたんだからぁ!でも、あんなのもうこりごりだよねー!」
と気楽そうに言う。
「あんたはもうちょっと気にしなさい」とミナトに軽くチョップを入れられたアカリが「痛だっ...」と箸を落としながら頭を押さえている。
私は苦笑しつつ、昨夜のことが夢だったかのように思えてくる。
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食事を食べ終わり、私たちは通学路へ向かった。
校門へ向かう道中、アカリが身を寄せてきて、声を潜めずに言った。
「昨日のアレ、なんで何だろうね!ハルがーー」
「「ちょ、まって!」」
私とミナトが慌ててアカリの口を塞ぐ。
もごもごとまだ口を動かそうとするアカリに向かってミナトが言う。
「その話は絶対に誰にも言っちゃダメ、ハルに何が起こるかわからないんだから」
アカリは目を丸くし、首を縦に何度もふる。
私は胸をなでおろし口を開く。
「隠せるなら隠しておきたいかな、もうあんなことに巻き込まれたくないし...」
するとアカリは無理やり拘束を解き「わかったよ~!」とわざとらしいくらい大きな声で返事をして、一人で足早に校門へ駆けていく。
ミナトが「あの子ほんとにわかってるのかなぁ...」とアカリの後ろ姿を見送りながら心配そうにつぶやく。
私も同じ不安を抱いたが、それ以上にーーいつも明るいアカリの笑顔が、どこか作りものに見えたのが気にかかった。
本日はとり肉のトマト煮でした。




