14
稲刈りの時期で少々忙しくて手が付けられませんでした。
まだ忙しいので少しずつ手を付けていきます!
――R.A?
聞きなれない言葉に小首をかしげていると、横に座っていたデイヴィッドが答えてくれる。
「R.Aっていうのは《Raid Arms》《Recon Assist》《Ride Armor》とか……いくつかの体系に分類される、陰陽師専用の装備のことだよ。式神の技術を応用して作られていて、持ち主によって性能も形もバラバラなんだ」
「デイヴィッドさんも持ってるんですか?」
「もちろんさ、僕のは神将ANI-R.A、分類は《Recovery Aid》で怪我の処置をしたり、戦場のサポートをするタイプだね」
「アタイのは《Ride Armor》さ!」
遮るように女性の声が割り込んでくる。
後ろに立っていたのは今日の会議で最初に私を擁護してくれた人物。
大きな身長からまず目線が組んだ腕に向いてしまう、その腕はまるで太い縄のように張っていて、大きなガタイはまるで男性かと見紛うほどだった。
上のほうをさらに見ると堀の深い顔にはサファイアのように蒼い瞳、綺麗な赤毛を頭頂部でまとめていて馬の尻尾を彷彿とさせるポニーテールが印象的でよく似合っている。
「先ほどはありがとうございました!私、ハル・ミカドって言います!」
「元から口出すつもりだったからいいんだよ!自己紹介がまだだったね、アタイは、ブリギッテ・ヴァーグナー。よろしくな新人!」
彼女の快活な声はどこか頼りなるような安心感があった。
「R.Aの支給はブリギッテさんとエンリちゃんの二人がいるなら安心だね。僕はこの後、別の任務だからそろそろ失礼するよ。これから大変だろうけど頑張ってね、新人君」
彼は椅子から立ち上がり、私の肩をポンと叩く、やけに自然な仕草で立ち去っていく。
「デイヴィッドさんもありがとうございました!」
そう返すとデイヴィッドは片手を軽くあげ、ひらひらと手を振りながら背を向けて出て行った。
扉が閉まる音がして、会議室にはいつの間にか私とブリギッテさんとエンリさんの三人だけが残っていた。
「なぁ、アタイには分かんないけど肩叩いたりってセクハラになるんじゃないのかい?」
「え!たしかに...?」
「本人が気にしてないならいいでしょう、ですがデイヴィッドさんは少し自重したほうがいいですね」
―――――――――――――――――――――――――――――――
長いエレベーターを下り、地下に着く通路の奥からライトがだんだんと迫る様に点いてまるで私たちを出迎えてくれてるように感じる。
通路の横にはいくつか部屋があり、ランニングマシーンやダンベル、サンドバッグなどいろいろな設備が揃っているのが見て取れる。
二人に案内されるまま、一番奥の部屋に通される。
扉が開くと、無機質な白い壁と、天井からの蛍光灯に照らされた広大な空間が広がっていた。
《エンリ・サルカワ、ブリギッテ・ヴァーグナーはR.Aの戦闘動作のデモンストレーションを行ってください》
「戦闘訓練をしろってコトかい!簡単でいいじゃないか!」
「そうですね、胸をお借りします。ヴァーグナーさん」
「ハルはアタイの後ろに来な、エンリ!軽く4機でいいかい?」
「お願いします」
二人はどこからか黒い符を取り出し、腕を前に突き出し構える。
「じゃ、まずはアタイから行くよ!術式起動!神将SANTE-R.A!」
黒い符が宙に浮かび、青い電撃を迸らせながら、空中に九頭の馬のR.A《神将SANTE-R.A》が出現する。
一頭一頭が蹄を鳴らし、トレーニングルームを駆け回る。
「Sammeln!」
ブリギッテの号令で機械の馬たちは秩序正しく動き横並びで整列する。
「これがR.A?」
思わずつぶやく私にブリギッテが解説をする。
「アタイのR.Aは9機の戦乙女たち、制圧や仲間の支援だったらこの娘たちとアタイに任せときな!」
「次は私ですね、術式起動、神将ANTI-R.A」
ブリギッテとは対照的にエンリは淡々とR.Aを起動する。
黒い符から稲妻と共に現れたのは猿のR.A、神将ANTI-R.A。
現れた猿は頭部だけを動かさず首から下だけを回転させたり、片腕で逆立ちをし、足で拍手をしたりなどまるで自分の性能をアピールをするかのように振る舞う。
「ANTI-R.A来なさい」
エンリが命じるとR.Aは彼女の背中におぶられるような体勢になる。
次の瞬間、R.Aが変形を始める。
猿の脚部だった部分がエンリの両腕に装着され、両腕はエンリの肩口から飛び出し、まるでインドの神話に出てくる神のような多腕の姿となる。
「私のR.Aは《Raid Arms》型です、A.Iにより制御された多腕が戦闘の補助をしてくれます」
「準備もできたし、さっさと始めようかね、オルトリンデ、ジークルーネ、ロスヴァイセ、ヘルムヴィーゲは前へッ!残りは後方待機!」
ブリギッテが命じると4機のR.Aが彼女の前方に歩み出る。
「エンリ!そっちから来な!」
「わかりました、行きます」
エンリはスゥーっと大きく深呼吸をすると、激しく踏み込み、SANTE-R.A達の頭上に跳躍し、空中から地面に向かって拳を撃ち抜く。
SANTE-R.A達はエンリの攻撃を散り散りになり避ける。
SANTE-R.Aがいた床が抉られ破壊される。
「ジークルーネを前衛に3機は援護に回れッ!」
1機のR.Aがエンリに飛びかかるが、エンリは攻撃をギリギリで避ける。
馬の前脚が地面についた瞬間、急停止をし、後ろ脚がエンリの頭部めがけて襲いかかる。
「危ないっ!」
物理法則を嘲笑うかのような、信じがたい軌道に思わず声を出して彼女に危機を伝えようとする。
けれど、エンリはそれに一瞥もくれない。
彼女の体がしなやかに沈み、馬の脚は髪の毛一本分の距離を空振りする。
さらに3機が立て続けに突進、蹴り、跳躍と襲いかかる。
だが、エンリの動きは止まらない。
まるで風に舞う落ち葉。
つかもうとすれば手の中をすり抜け、形を留めない。
4撃目をかわした瞬間、エンリの右肩から出た腕が馬の脚を掴み地面に叩きつける。
――ズガァン!!
空気が震え、床に衝撃波が走る。
機体は一瞬、放電したかと思うと霧のようにほどけ、消滅した。
「な、何ですかあれ!?」
「あれは猿川流戦闘術の基礎、壱の番『落葉』だね、あのコ、またキレが上がってるじゃないか」
猿川流―――。
昔、テレビの特集で見たことがある。
機械が発達したトーキョーにおいて、未だに生き残る最高峰の武術。
習得するのが困難な武術の為に扱う者が世界に数人しかいない。
そしてその一人が、目の前に立っている。
「これが陰陽師の戦闘...」
目前で行われる超常の戦闘に、体中に鳥肌が立つ。
「ジークルーネ!オルトリンデ!ロスヴァイセ!三機で同時に攻撃しなッ!」
ブリギッテが声を張り上げると、馬が嘶きを上げ、三機で同時に突進を仕掛けてくる。
エンリは一歩も退かない。
足を開き、正面を見据える。
彼女の背に宿る多腕外骨格――神将《ANTI-R.A》が、まるで呼吸するかのように駆動音を唸らせた。
「猿川流―――。弐の番」
空気が振動する。
「Los!Los!Los!!」
ブリギッテの号令と同時に、三機が一直線に殺到する。
金属の蹄が床を砕き、疾風が駆け抜ける。
「『波濤』ッ!!」
エンリが叫ぶと空間がねじれた。
右腕、左腕、左肩、右肩――四本の腕が順に動き拳が連なって突き出される。
その動きはまるで渦。
圧力が波紋のように広がり、目には見えぬ衝撃が三機を押し返した。
一撃、二撃、三撃、四撃――波のように重ねられた拳の奔流が、三機のR.Aを飲み込む。
三機のR.Aがぶつかり合いながら壁に叩きつけられる。
直後、青い稲光と共に機体が爆ぜ、破片は霧となって消えていく。
「....ふぅ」
エンリは小さく息を吐き、構えを解いた。
肩に宿る多腕の外骨格がカシャン、と音を立てて折りたたまれいき、黒い符となって霧散していく。
「さっすがだねぇ、エンリ!」
ブリギッテが満面の笑みを浮かべながら近づいてくる。
「アタイのSANTE-R.Aたちが一機も触れられないなんて、ちょっと悔しいくらいさ!」
「手加減してもらったおかげですよ、ヴァーグナーさん」
エンリは答え、僅かに口元を緩める。
「ヴァーグナーさんが本気で出てきたら、私は足元にも及びませんよ」
「ははっ、言うねぇ!次はアタイとブリュンヒルデも参加してもいいかもしれないねぇ!」
ブリギッテは朗らかに笑い、腰に手を当てる。
彼女の笑い声が天井のスピーカーに反響して、重い空気を一気に明るくしていった。
「す、すごい....」
言葉が自然と漏れる。
目の前で繰り広げられた光景は、まるで映画のワンシーンのようで、現実感がまるでなかった。
私もいずれ、あんなふうに.....。
「それじゃあ、次はハルの番だな!オラクル!」
ブリギッテが天井に向かって声をあげる。
《ハル・ミカドにR.A、神将MAKO-R.Aを支給します。》
甲高い金属音と共に青い閃光が私の前に現れ、中央には黒い符が浮かんでいる。
閃光が消えるとひらりと符が手元に舞い降りる。
「それがアンタのR.Aだよ、起動してみな」
「....わかりました」
緊張で少し喉が渇く。
心臓の鼓動が妙に大きく聞こえる気がする。
深呼吸をし、声を振り絞る。
「術式起動ッ!!」




