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車に乗ってから、もうに二時間が経っていた。
正午を過ぎた日差しがフロントガラス越しに差し込み、車内を照らす。
渋滞のない道路を車はひたすらと一定の速さで進む。
その効率的すぎる走りが、逃げられないという事実を突きつけてくる。
助手席からはデイヴィッドのいびきが規則正しく響いてくる。
エンリと呼ばれた女性はずっと運転に集中をしている。
沈黙に耐えられなくなった私は口開いた。
「...あと、どのくらいで着きますか?」
運転席のエンリがミラー越しにちらりとこちらを見る。
「あと一時間ほどです」
答えは簡潔で無駄が一切ない。
それだけで会話が終わってしまいそうな気配に、思わず言葉を重ねる。
「遠いんですね...ミエ区でしたっけ?私いったことがなくて...」
エンリはしばらく黙ったままハンドルを握っていた。
やがて、ため息をつくように言葉を返す。
「貴方は処罰を受けに行くんです、遊びに行くわけじゃないです。」
冷たい響きに心臓が締め付けられる。
ミラー越しに、エンリの鋭い視線が数秒こちらをとらえてから、ふと外れる。
少し間をおいて、彼女は気まずそうに呟いた。
「申訳ありませんでした...」
「えっ?」
唐突な言葉に、思わず顔を上げる。
思いもよらない言葉が彼女の口から発せられる。
冷酷で機械的な人だと思ってた彼女から謝罪されるなんて、想像すらしなかった。
エンリは視線を前に向けたまま続ける。
「あなたのご学友たちの言い分も、理解のできるものでした。任務に囚われて、見るべきものが見えていなかったかもしれません。」
それはあくまで規律を崩さない声音だった。
けれど、その声には確かに人間らしい温度を感じた。
車内にはまた静寂が訪れる。
彼女の人間らしい言葉を聞き、どこか胸の奥に安心感を覚える。
「フフッ...」
静寂が訪れたばかりの車内にかすかに笑い声が聞こえた。
助手席で寝ていたはずのデイヴィッドが窓の外を向きながら笑っていた。
「起、起きていたんですか?!」
エンリが思わず声を荒げ、耳を赤くする。
デイヴィッドは胸ポケットからタバコとライターを取り出し、火をつけてからゆっくりと答える。
「いやぁ、ついついね。若い子のこういう場面からしか得られない栄養素ってありそうじゃない?」
ハハハッ、と笑いながら彼はタバコをふかし始める。
エンリは耳を赤く染め上げながらも、窓を開け換気を始める。
私も真横の窓を開けようとした瞬間、窓が勝手に開いた。
エンリが運転席から開けてくれたのだ。
その気遣いに、私は少しだけ肩の力を抜くことができた。
緊張感のほどけた車内で私は再び窓の外を見る。
外から見える景色が少しだけ明るく見えたような気がした。
今回ちょっと短いんで、もう一本今日中に投稿するかもです!
あと夕飯はそぼろ弁当でした




