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女性の声にクラスが静まる。
だがその静寂はすぐに破られることになる。
クラスメイトの誰かが「あの服、陰陽師じゃね?」というと再びクラスがざわめく
「本物?やばくね?!」
「連行ってどうして?」
「ミカドさんなんかしたの?!」
ざわめきは瞬く間に膨れ上がり、教室全体に動揺が広がる。
そんな混乱の中、女性がこちらを見つけ、歩いてくる。
カツッ カツッと規則正しく聞こえる靴音。
クラスのざわめきや動揺を無視して耳に入ってくるそれは、私の人生を大きく変えてしまうタイムリミットの音のように思えた。
女性が目の前に立ち止まり、冷ややかな眼差しで私を見下ろす。
「ハル・ミカド、貴方を連行します」
その言葉は、あまりにも無機質で、私の耳に届いた瞬間、全身から血の気が引いていった。
目の前がぐにゃりと歪み、呼吸が上手くできない。
ーー私の日常が崩れていってしまう。
何でもない日常が瓦解する、二度と戻らないものになってしまう。
その恐怖で体が震える。
「ま、待ってください!!」
聞きなれた声が震えながらも教室に響く、
アカリだった。
ガタッと勢いよく椅子を打ち鳴らして立ち上がり、女性と私の間に立ちふさがる。
アカリは必死に涙を堪えるように顔を歪めて声を出す。
「ハルを...ハルを連れて行かないでください!」
アカリは震える手をぎゅっと握りしめ、泣きそうになりながらも唇をかむ。
それでも、潤んだ瞳は目の前にいる女性陰陽師をしっかりと見据えていた。
しかし、女性は情に流される様子もなく口を開く。
「陰陽師であるハル・ミカドが民間人のあなた達を伴い任務の場に赴いたことは安全保障を無視した、重大な規律違反です」
冷酷な断罪の言葉に教室が再びざわめく。
「ミカドさんが...?」
「陰陽師なの...?」
「規律違反したの...?」
そのざわめきをかき消すようにアカリが声を上げる。
「ハルは...何も悪くないんです!昨日も私が無理やり連れて行ったんです...!」
消え入りそうな声を必死に押し出し、叫ぶように言葉を吐きだす友人の背中はとても小さく、そして誰よりも大きく感じた。
必死の叫びが教室に響く。だが、女性の瞳は少しも揺らがなかった。
クラスの雰囲気は重く沈み、誰もが次の言葉を待って息をひそめていた。
その沈黙を破ったのは、椅子を引く小さな音だった。
「...その理屈はおかしいですね」
ミナトが立ち上がっていた。
制服を直し、冷静な眼差しで女性と向き合う。
「確かに、規律違反なのかもしれません。ですが、昨日の現場は本来、私たちの生活圏であり、突発的に巻き込まれたものです。陰陽師であるハルが私たちを保護し救助したともとれるんじゃないですか?」
女性の眉がぴくりと動き、発言しようとする。だが口を開く前にミナトが続ける。
「規律は人を守るためにある。その規律を盾にして、救った者を罰するのは本末転倒ではありませんか?」
女性とミナトの視線が交錯する。
二人の視線の間には今にも火花が散りそうな雰囲気を醸し出していた。
そんな空気を壊すかのように今まで沈黙を貫いていたもう一人の陰陽師が教室に入ってきて喋りだす。
「ハハハッ、青春だねぇ、エンリちゃんも堅過ぎるよォ」
教室の空気が一瞬で変わる。張り詰めた緊張感が一気にほどけ、どこかふざけた空気が混ざる。
男はタバコの煙をくゆらせながら、机の間をゆっくり歩きこちらに向かってくる。
「自己紹介がまだだったね。僕はデイヴィッド・シェパード・ドッグ。それでこっちの女の子がエンリ・サルカワちゃん。オラクルの指令で、ハル・ミカドちゃんの連行を命じられた者さ」
やけにきついタバコの葉の匂いが教室に広がる、デイヴィッドと名乗った男性がミナトに向かっていう。
「僕らも本当は強制連行なんてしたくないんだよ、でもね規律を違反した陰陽師にはちゃんと罰をあたえないといけないんだ。「大いなる力には」ってやつだね」
彼は昔流行った蜘蛛のヒーローの映画の有名なセリフを出しながらへらへらとしながらも言ってくる。
「突発的に巻き込まれたっていったじゃないですか?なぜハルが罰を与えられるんですか?」
ミナトは飄々とした彼をみて高圧的な態度で説明を求める。
瞬間デイヴィッドの纏う空気感が変わる。
「“巻き込まれた”って言ってるけど、それ、“嘘”だよねぇ」
ミナトが息をのみ、教室に緊張感が再度張り詰める。
「そこのハルちゃんに任命の通知が届いたのが17時頃、任務の通知が来たのはそのあとすぐだったかな?その時、駅近くの監視カメラで君たち3人が目撃されている、それで君たちが校区外の廃墟ブロックで目撃されたのが18時頃、一度帰宅するために駅に向かってるのにわざわざ戻って廃墟ブロックにむかってるんだよねぇ」
デイヴィッドは肩をすくめ、タバコに口を付け煙を吐き出す。
「確かに巻き込まれたのかもしれない。でもその“巻き込まれた”ってのは、君が望んだ結果でもあるんだよね?」
ミナトは言葉を失い、視線を逸らす。全員が静かに二人のやり取りを見つめる。
俯いたミナトを見て、デイヴィッドは口元に笑みを浮かべる。
「まあ、善意は認めるけどね、今日ここでは通用しない。オラクルの指令は絶対なんだ」
重苦しい空気が教室にまた広がり始める、それに気づいたデイヴィッドが安心させるように続ける。
「でもね、たぶん罰もそんなに厳しくもないと思うよ?そもそも式神の支給もまだだし、任務の通知が来るのも本当は式神を与えられてからのはずだからね」
その言葉を聞いて、私は息をのみ決断する。
「...わかりました、行きます」
これ以上アカリとミナトに負担を掛けたくない。
机から立ち上がり二人の前に出る。
私はアカリとミナトを安心させるように視線をかわす。
教室のざわめきの中、私は振り返り、小さく微笑んだ。
「大丈夫、心配しないで」
そういうと二人の表情が悲しそうに曇る。
それでも私はこれ以上友達を自分のせいで巻き込まない、と固く決意したのだった。
文章の肉付けをしたほうがいいとアドバイスされたので意識して書いてみました。
夕飯はさんまの塩焼きでした。




