閣下復活、鍛錬場へ
毎朝の雪かき。
そして、部屋での鍛錬。
家令の体重増加献立。
妻のミレイユが目覚めて、気力を取り戻したライオネルは、精力的に体力回復、筋力増強を目指した。
そして、とうとう、兵士皆がいる鍛錬場へと復帰を果たした。
「長い間、休んでしまって迷惑をかけた。私もそうだが、皆も自主錬で少々筋肉が落ちてしまったことだろう。だが、安心しろ。短期間で効果の出る鍛錬法を考えたからな」
見たこともないほど穏やかに微笑む、ライオネルが提示した鍛錬法は、身体を限界まで痛めつけるという、相変わらずの戦場を仮定としたものだった。
(ひぃ⋯⋯っ)部下たちの息を呑む音だけが、かすかに聞こえた。
鍛錬場は、疲労困憊でヘロヘロの部下たちで溢れていた。
「もう、無理、マジ無理、閣下〜⋯⋯もう暫く休んでて〜⋯⋯」
「喋んな、喋んな。閣下が来るぞ。まだ余裕と勘違いしてスッと来るぞ」
「呼んだか?」
「「わあ!!!」」
「自主鍛錬は、終わったか?では、一人ずつ私と対戦だな。さあ、行こう」
と、言うとライオネルは、部下の腕を掴むとズルズルと模擬戦の場所まで引きずって行く。
「ひぃ、無理!閣下!ちょっと、休みましょ!休憩しましょ!」
「はは、なにを言う。戦場では休憩なんぞ与えてはくれまい」
「いや、冗談でなく⋯⋯あ!そうだ!なら、休憩を勝ち取る練習しましょ!休憩をも取らせない戦場でいかに休憩するか、ね!閣下!な!みんな!」
「そうか、ならば私が敵ということで一人一人しばき倒していくのはどうだろう?」
ライオネルの明るい声に、
「しばき倒す!?」
「それ、方言なんで意味わかりません!」
「ちょっと、分からないから俺、モーリスさんに意味聞いてきます!」
と、ライオネルの前を通り過ぎ、逃げ出す部下の足を払い除け床に転がした。
「モーリスに聞くことはない。今から私がその身をもって教えるからな」
楽しそうに、意気揚々とそうライオネルは言葉を放つ。
腰が抜けて立ち上がれない部下に、両手に部下を引きずりながらライオネルは、身をかがめると、にこり、と微笑み、
「さあ、行くぞ。それとも立ち上がれないのなら、お前も私が連れて行こうか?」
と、言うのだった。
「ふむ、やはり自主鍛錬で筋肉が弱くなっているな」
と、部下たちに回復魔法をかけて回りながら、ライオネルはそう独りごちる。
なぜライオネルが、こんなに気力満々で元気なのかと言うと、妻、ミレイユから渡される煎じ薬のせいである。
そのせいか、ひと口飲むと気分は高揚し、いくら身体を動かそうが、疲れ知らずになっているのである。
いくら鍛えても疲れない。それは、部下たちにとって斬っても斬っても、なにも効果を与えることができない死神であった。
「マジで魔物討伐のが楽だった⋯⋯」部下の一人がボソリと呟く。
ライオネルに回復魔法をかけてもらった者たちから
「うぅ⋯⋯あったけぇ」
「母ちゃん⋯⋯会いてぇ」
などと声が聞こえる。
相変わらず奥方愛に溢れたライオネルは、慈愛に満ちた魔力で部下たちを回復させているようだ。
ひととおり回復魔法をかけたライオネルは、周りを見渡すと笑顔でひと言。
「うむ、回復したな。では、鍛錬を始めるぞ」
その声を聞いた全員が手を上げ、
「すみません!閣下!鍛錬の前に厠へ行かせてください!!」
と、脱走を試みるのだった。
そんなライオネルが監督する鍛錬のお陰か、雪解けの春が訪れる頃には、ライオネルの身体つきは元のように逞しくなり、
「ライオネル様、すっかり元に戻られましたね」
と、笑顔で感想を述べる妻を抱き上げると、再びふくふくと柔らかくなった妻の頬に、ライオネルは唇を落とすのだった。
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次回は、ライオネル聖母編になります。




