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【最終章】白金の少女と枯れ草になった獣【完結】

お読みいただき有難うございます。

あとがきに切実なお願いがあります。

目を通していただけますと幸いです。



 輿入れの夜、眼前の映る模様が、人の表情に見えたことを思い出した。


 今はただの天蓋の模様だ――。


(いつからただの模様に見えるようになったのかしら⋯?)


 そう思い、首を巡らすと、寝台の傍で何故か片手に髪を解くブラシ、片手にミレイユの白金色の髪を一房手に持つ、ライオネルと目が合った。


 ライオネルは、口を開けた呆けた顔をしていた。


(まあ、喉の奥まで見えるほど、お口が大きいわ)


 なぜそんな顔をしているのか、ミレイユにはさっぱり分からなかった。


「――⋯おはようございます、ライオネル様。鍛錬はよろしいのですの?」


 何故だか、少し声が出しにくかった。


 微笑みを向けるとライオネルの瞳が震え、信じられないものを見るようなそんな表情。


「⋯ミレイユ――⋯ミレイユ、もう、良いのか⋯?」


 かすれ、震えた声でそう問いかけてくるライオネル。


(⋯なにがもう良いのかしら?)


「はい、すっかり眠りましたわ。睡眠はもう十分事足りてます」


 にっこり笑って、そうライオネルに教えてあげた。


(⋯あら?なんだかライオネル様、お痩せになられたかしら⋯?)



 よく見ようと起き上がろうとする身体に何故だか、力が入りにくい。


(⋯あら?どうしたのかしら?)



 まるで輿入れしてきた時のような筋力の無さだ。



 すぐにライオネルが介助してくれたが、そのままぎゅっ、と抱きすくめられた。



「⋯⋯ライオネル、さま」


 ライオネルの大きすぎて背中に回らなかった腕が何故か届いた。


 ライオネルの香りがする。大好きな匂い。


 ミレイユは、すぅ、と大きく深呼吸。


 その匂いは懐かしく、生きてて良かった、と思わせた。


 その感覚に、なぜそう思わせるのか、ミレイユは不思議に思う。


 

 抱擁から解放された時、目を擦るライオネル。


「着替えるのだろう?手伝おう」


 というライオネルの、何故だかそのまなじりは濡れていた。

 


 ライオネルは、ミレイユの私室へ入ると衣装持って戻ってくるなり、あれよあれよ、と慣れた手つきで身体に負担のかからない簡素な衣装に着替えさせられた。


(こんな衣装持っていたかしら?)


 しかし、今のミレイユは、立ってるだけでも身体には怠さを感じるので、正直軽い衣装はありがたかった。



 歩こうとすると、かくりと、膝の力が抜けた。


 すぐさま、ライオネルに支えられ、そのまま横抱きにされる。



「ゆっくり元の生活に戻していこう」


 そう言われた。


 寝室にしつらえてある長椅子に座らされると、ライオネルは、またミレイユの私室へ。



(⋯こんなに頻繁に私の私室を出入りしていたかしら?)


 ライオネルの変化に首を傾げる。


 私室からセラが慌てたようにお辞儀をして入室をすると、すぐさまミレイユの傍で膝を折る。


 ミレイユの太ももに置く両手をしかと握ると、


「奥様⋯っ!ご無事で⋯本当に本当に良うございました⋯っ!」


と、いうと、わあ!と泣き出した。

 


 それから、消化に良い温かい食べ物が用意された。


 食べ物を前にすると信じられないぐらいの音量でお腹が鳴った。


 恥ずかしく赤面してしまったが、周りの様子を伺うと、何故だがライオネルもセラも嬉しそうな表情で微笑んでいた。


 食後の後、少し休憩すると、ライオネルに横抱きにされ、なぜだか、屋敷の中でも上等な部屋に連れて行かれた。


 その行き道、廊下から見える窓には、真っ白の世界。


 雪が深々と降り積もっていた。


(あら⋯?たしか私の覚えているのは⋯)


 ――暦の上では秋だが、収穫をしていたはず。

 冬口ぐらいの寒さだった。


 入室の許可をライオネルは取り、扉を開けると、広々とした部屋に敷かれた絨毯の上に、さらに絨毯を敷き、そこに伏せている大猫を背もたれにし、寛ぐ王太子の姿があった。



「おう、目覚めたか、娘。一ヶ月近くぶりであるな」


 その言葉にミレイユは軽い衝撃を受けた。


 目を覚ます前、王太子と話をしていた覚えがある。


 なぜその王太子が我が物顔で部屋にいるのか疑問に思ったミレイユ。聞けば一昨日から滞在していると言う。



「再び聖女との蜜月が始まると思うて、陽陽と城に戻ってみれば、産婆のおばばと子らの蜜月が開始されたのじゃよ。我が、乳母に任そう、と勧めても頑なに首を縦に振らんのじゃ」



「我の相手も全くしてくれんでのう。なので我より悲壮なライオネルの顔を見て溜飲を下げようと出奔したのじゃ」


と、締めくくった。



「殿下、私の悲壮はミレイユの目覚めとともに去りました。ささっ、どうぞ殿下も」


 去れ、とは言わぬまでもなにを言いたいのかは、ミレイユでも分かった。


「お主、この激しく雪降る中で我に、帰れと⋯?」


「殿下は、火の御加護がございますでしょう」


「たしかに、我は火の女神の加護があるが、それとこれとは別よ。我は今、妻の聖女に冷たくされ、おばばからは乳をやる仕草すら覗くな、と締め出され、傷心中。その上、部下からこの雪積もる中、今まさに外に放られようと⋯。人間というのは自己の欲の塊よ」



と、ライオネルからしたら塊の代表のような王太子に言われ、納得がいかないが、我慢した。



「娘、お主は眠っていて知らぬから教えてやるが、この目の前の枯れ草のように変わり果てた大男、ライオネル。お主のこの大猫が現れたり消えたりする度に血相を変えて、寝室に突撃していたのじゃよ。お主が目覚めぬから職務放棄。鍛錬が人生の男は、鍛錬すらも捨ておった」


「しかもな、」とまだ続く。


 誰も王太子を止めるほどの権力者はここにはいない。


 ライオネルの顔は、みるみる内に赤くなる。


 ミレイユはその様子をつぶさに観察した。


「再生魔法を使う際も、びすびす、べそべそと泣きながらよ。それで何度唱え直したか⋯」


 言うと、俯いて笑うのだった。

 

 ライオネルの顔は、真っ赤だ。


「しかも、この男、ここに訪れる度にお主を抱き抱えておって歩くのじゃよ。やれ、雪が降ったやら、今日晴れてるから、とかなんとか。お主に話しかけて。我は、⋯我は、てっきりお主そっくりの人形をこさえて、この大男が人形遊びに目覚めたのかと思うたぞ」


 その様子を思い出したのか、大猫の懐に顔を突っ伏すと、震えるほど笑っていた。


 ライオネルの顔は、赤を通り越して赤黒い。


 そして、話の内容から相当な頻度で、王太子がシュトラール家に訪れていたことを知る。


 ライオネルは、話題を変えようと王太子を呼びかける。


「なんじゃ、申せ」


 指先で涙を拭いながらそう応える王太子に、ライオネルは、


「魔物の森の保護の件は⋯」


と、切り出した。


「そんな話をする心の余裕も出来たのじゃな。結構、結構。条約は両国どちらも破いてしもうたし、魔物もいないなら無効よ。聖女とて、もう子供が出来たのじゃ。魔物に構うこともないじゃろうて」


「人類皆殺され食われようとな、聖女だけが残る。襲われない。高みの見物じゃ。慈悲という気持ちが生まれるのもそのせいじゃな。己が傷つけられることがないからのう」


「まあ、我はそんな浅はかなところもひっくるめて愛しいと思うのじゃが、肝心な聖女は我が子に夢中よ」


 そう、寂しそうに微笑むと


「⋯ライオネル、鍛錬は再開するのじゃろう?」


と、問いかける。


 ライオネルが肯定の返事をすると、


「ならば、結構。嫁御は、奇跡の娘として社交の間では広まっておる」


と、ライオネルの言葉に満足気に頷くと、ミレイユを見ながらそう発した。


 王太子は、続ける。


「しかも白金色で子供が出来やすい。どの属性も扱えて同時発動も可能。普通ならば考えられぬ。父親が禁術に触れたが、娘の能力の発現に関しては、我らはとがめはせぬ。ならば奇跡、と都合よく解釈されたのじゃな。その娘が目を覚ましたのじゃ。次は子供を産んでみよ、できやすいと証明になり、狙う貴族は、増えてくるぞえな」


 王太子は、そう言うとふふん、と鼻を鳴らし、


「人妻じゃろうがなりふり構わぬ奴らも出てくるじゃろうのう。しかもお主は、枯れ草に変わり果てておる。狙う貴族は多かろうて」


と、ライオネルに忠告した。



「子をすのは王命であるからな。作らない、という選択肢はないぞ。離縁してでも双方には子を作ってもらうのが、我が父君の新たな希望でもあるからな。まあ、そうならぬよう、存分に励むのじゃぞ」



 言うと、王太子はにっこりと艶然えんぜんに微笑んだ。


 ミレイユがそ⋯っ、とライオネルの袖を掴むと、


「⋯私もライオネル様には鍛えていただきたいのです。このままだと綺麗なライオネル様です。そうなると、他の方にライオネル様を奪われかねません。私は不安です」


と、心の内を打ち明けた。


此奴こやつが⋯綺麗とな?」


 頬を染めるライオネルを指差し、ミレイユの言葉に目を丸める王太子。


「娘、認識を誤ってはならぬ。綺麗とは我のことぞ。世界中の美姫すら我の前では太刀打ちできぬ、と言わしめた男であるからな」


 王太子は、自分の胸に手をやると、そう答えた。


 ライオネルは、その言葉に、王太子の狂信者である強大国の第一王子の顔が浮かんでは消えた。


(⋯⋯まさかな)


 ライオネルは、考えすぎだ、と左右に首を振った。


 そんなライオネルに再度、ミレイユから袖をつつ、と引っ張られた。


 顔を向けると、内緒話なのか、声が漏れぬよう口に手を添え、ライオネルの耳に、唇を寄せたミレイユが、



「ライオネル様の子が授かりますように、精一杯務めますね」


と、そっと囁いた。



 夏の木漏れ日、髪をひっつめて硬い表情で開口一番にそれを口にした少女の影と重なる。



 あの少女は、今では明るくライオネルにそう言って、照れるように微笑むのだった。






ここまでお付き合い下さり有難うございます。

多くを望んで、恐縮ですが、もし「面白かった」、「暇つぶしになった!」と感じていただければ、ブックマーク登録や評価の星に色をつけていただけますと幸いです。


ブクマがそのままでしたら、100話目指してなにか書きたいと思います。リクエストを切実に募集しています。

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